学生に作らせる紙ロケット
写真は土岐教授が手本に作ったもの。うまく打ち上がる
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 学生には、型紙を与え、完成品を見せるだけ。作り方は任せる。すると、学生の多くは失敗する。全く打ち上がらないもの、あらぬ方向に飛んでいくもの。理由は様々だが、8割方はうまくいかない。

 「モノを作る勘やテクニックがない。丸い筒をきれいに作るにはどうしたらいいか、飛行姿勢を安定させる羽を筒に糊付けする際、糊代に曲面を作るとか、機体の重心の考え方といった基本ができていないのです。一からモノを作る経験がないからでしょう」と、土岐教授は分析する。

 ものづくりの体験や勘が失われている。その理由は、小中学校よりむしろ、高校時代にあると土岐教授は見る。

 「紙ロケットは、意外に小中学生の方がうまく作ったりするんです。調査でも『理科が楽しい』と答える子供の割合は年齢が進むほどに低下する。今、理科離れの対策では、小中学生向けのものづくりや科学教室が盛んだけれど、高校生対象のプログラムは一気に少なくなる」

 大学受験に終われ、知識偏重の教育で、実際に手を動かしてモノを作る体験をしていないのではないか。小中学生対象の科学教室などで目を輝かせたはずの子供たちが、高校に入って興味を失う。大学教育の現場で感じた思いが、高校生を対象にした缶サット甲子園の開催につながる。

宇宙を目指す「ロケットガール」

 土岐教授には、専門である機械力学の研究者のほかに、もう一つの顔がある。2004年に秋田大学が開設した「ものづくり創造工学センター」のセンター長として、ものづくり教育の研究にも携わる。重視するのは机上の教育論ではなく、ものづくりのプロジェクトを体験させる実践教育だ。同教授は「プロジェクト遂行型実践教育」と呼ぶ。

 「マニュアルの否定が根本にある。目標を与え、そこに向かう過程は学生たちに自分で考えさせる。プロジェクト体験こそが、学生の力を引き出す」と、土岐教授は力を込める。

 能代宇宙イベントを初めて開催した翌年、土岐教授らが2006年に始めた「ロケットガール養成講座」は、その一環だ。女子高校生たちがハイブリッド型ロケットと缶サットを製作し、実際に打ち上げる。秋田で実施した第一回の公募には9人の女子高生が手を挙げた。

 ロケットのエンジン部分や切り離し機構、缶サットなど、ロケットを構成する機能パーツごとのチームに別れ、それぞれ担当部分を製作。最終的にそれらを持ち寄って組み合わせる。ロケットを打ち上げ、缶サットを放出。それがパラシュートで降りてくれば成功である。

 言うは易し。だが、実際は簡単ではない。