「学生時代の研究や勉強は,今の仕事でどのように生きていますか」

 技術者を目指す学生は,理工系の大学などで専門的な研究や勉強をしている人が多いと思います。そうした研究や勉強は,就職して技術者になってから,どのように役に立つのでしょうか。あるいは,役に立たないものなのでしょうか。そこで,「学生時代の研究や勉強は,今の仕事でどのように生きていますか」という質問をして,自由記入形式で回答してもらいました。その結果,709件の回答が寄せられました。

 これら709件の回答内容は本当に様々ですが,「役に立っていること」について見てみると,いくつかの項目に分類することができます。代表的な項目は,(1)基礎的な知識,(2)論理的な思考,(3)問題解決へのアプローチ,(4)研究や調査の仕方,(5)直接的なスキル,(6)人脈,です。一方,専門的な知識を挙げた人はほとんどいませんでした。むしろ,基礎的な知識,仕事への取り組み方,考え方などが,社会に出てからの仕事で役に立つようです。以降では,各項目に分類した回答ついて具体的に見ていきます。

 (1)基礎的な知識とは,数学や物理,化学,材料力学,機械力学,電磁気学,電気回路学など,大学の一般教養課程あるいは高校で学ぶ知識を挙げる回答が多く見られました。一方,「学生時代の研究などを通して学んだ専門知識が直接役立っている」という回答はほとんど見受けられませんでした。「直接の知識が役立つほど会社の仕事は甘くない」というコメントもありました。会社での仕事はもっと複雑だったり,もっと幅広いテーマに取り組まなければならない場面が多いようです。だからこそ,基本に立ち返って取り組むために,むしろ基礎的な知識が役に立つと言えそうです。

 (2)論理的な思考は,自分の考えを表現したり相手に説明したりするときに役立つ,との指摘が見られました。例えば,「理論付けて説明する習慣が顧客へのプレゼンテーションで役に立つ」という回答です。プレゼンやレポート作成では,筋道を立てて説明しなければ,なかなか相手には伝わらないものです。逆に,論理的な思考や物事を分析して考える方法が身につくと,仕事をスムーズに進めやすくなるといえるでしょう。

 (3)問題解決へのアプローチを指摘する回答も非常に多かったのですが,これについても,上述の論理的な思考は有効なようです。例えば,「問題が発生したときに,何が起こっているのかを自分でかみ砕き,事象をモデル化して対策を考えられるようになった」,「デバグ(プログラムや設計の誤りを探し,取り除くこと)をする上で役立つ」といった回答がありました。

 (4)研究や調査の仕方については,「論文を作成するために,文献を調査したり必要な実験を繰り返したりした経験によって培われた」という主旨の回答が多くありました。知識そのものよりも,過去の知見を調べたり粘り強く実験したりする姿勢が,就職後の仕事では役立つようです。研究・調査の仕方を身につけることによって,上述の問題解決の力も磨かれるといえるでしょう。

 (5)直接的なスキルについては,それほど多くはありませんでしたが,「コンピュータの使い方」「プログラミング言語」「英語」を挙げる回答がありました。例えば,「コンピュータ・ソフトウェアを専攻していたので,会社に入っても(先輩に負けることなく)バリバリに活躍できました」,「コンピュータ関係の学科だったため,即戦力で活用」,「設計ツールの使い方については比較的役に立った」,などの回答です。英語については,論文の作成や収集・整理,学会や標準化での活動などで生きている,という回答がありました。

 (6)人脈についても,それほど多くはありませんでしたが,数件の回答がありました。なお,直接的に人脈を挙げたものではありませんが,「一人の力で進められるのは微々たるものであることを学んだことで,多くの人の力を借りて協力する大切さを実践できている」という回答もありました。