「ものづくりのためのベストソリューション」を掲げ,研究開発および設計における業務効率化に貢献するソフトウエアや サービスを展開しているヴァイナス。同社は,まず具体的な成果を顧客に見せるところから始めるというユニークなアプローチのビジネスを展開している。その 考え方や最近の取り組みなどについて,同社代表取締役社長の藤川泰彦氏に聞いた。地球環境問題の重要性が増していることや,計算環境の変化などを背景に,同社のソリューションに対する顧客からのニーズは,ますます高まっているという。

藤川泰彦氏
ヴァイナス
代表取締役社長
1996年に設立されたヴァイナスは,米Intelligent Light社の流体解析ソフトウエア「FieldView」の販売代理店業務から開始し関連する分野へ段階的に業容を拡大。現在は,「ソフトウエア販売・サポート」「エンジニアリング・サービス」「数理工学システム開発」の大きく三つを柱にビジネスを 展開している。ソフトウエア販売・サポートでは,創業以来手がけているFieldViewをはじめとするCFD(熱流体力学)分野の可視化ツールやソルバ,ターボ機械設計専用ソフトウエア,最適設計システム,強連成解析ソフトウエア,CADデー タ・コンバータ,高速・高安定マトリクス・ソルバなど,自社開発品と国内外のメーカーのライセンス製品を総合的に組み合わせ提供。さらに,これらのツー ル を活用するための様々なサポートおよび設計アウトソースのコンサルタント業務を展開している。
エンジニアリング・サービスでは,ターボ機械の総合設計,軽量化と構造最適設計,自動車の車体空力設計・空力騒音設計,燃焼現象の解析,キャビテーション解析など,専門性の高い設計支援サービスを提供する。「創立当初から航空宇宙関連の数値解析や設計に携わってきました。こうした高い技術力を問われる分野で培った経験やノウハウを生かして,研究開発や設計に取り組むユーザー様が,より大きな成果が得られるようにご支援しています」(同社代表取締役社長の藤川泰彦氏)。
数理工学システムの開発については,CAEおよびCFDを中心に研究開発および設計業務の効率化を実現する様々なシステムの受託開発やカスタマイ ズなどを手掛けている。これまでに独立行政法人 航空宇宙技術研究所(現在は宇宙航空研究開発機構)の依頼で航空機翼の流体解析データ作成システムを開発したほか,多くの自動車機器メーカーの設計部門に対してCFD自動レポート・システムや流体・ 構造解析入出力データ・コンバータなどの開発実績がある。
強力なマトリクス・ソルバを自社開発
これらのビジネスを同社が推進するための強力な原動力となっているのが,高度な数理工学の自社技術とノウハウだ。特に同社は,数値解析で計算を高速化する優れた技術を抱えている。「航空宇宙技術研究所が開発した基礎理論を基に,ヴァイナスと同研究所が共同で高速マトリクス計算ライブラリ『Super Matrix Solver』を開発しました。これはヴァイナスの主力製品の一つとなっています。このライブラリを用いることによって,熱流体,構造,電磁場,樹脂流動,光など様々な物理現象の解析に使うマトリクスを,高速かつ安定して解くことができます」(藤川氏)。同ライブラリを組み込むことによって,様々な 解析・シミュレーション・ツールの計算速度が格段に高まる。同社は,このほかにエンジニアリング・データをやり取りする際のセキュリティを確保するために役立つ,独自の暗号化システムの開発にも取り組んでいる。
こうした強力な技術をコアに事業を展開する同社の顧客は,官公庁,技術関連の財団法人,大学をはじめ,研究開発部門を中心に幅広い分野の企業に広がっている(図1)。その数は年々増えており,いまや約450社にも上る。
「環境」と「計算環境の変化」が追い風に
ここにきて同社のソリューションが注目を集める機運が高まってきたという。「いま大きく二つの動きに注目しています。一つは環境対策。もう一つ は,PCクラスタの進化にともなう情報処理システムの変化です。いずれにおいても,急速に問題が高度化していることから,これまでの取り組みの延長では対処 できない課題が浮上しています。私たちが提供するソリューションを活用することで,社内のリソースだけでは越えられなかった設計目標の『壁』を越えることができるでしょう」(藤川氏)。
こうした動きを背景に同社が力を入れているソリューションの一つが,最適設計システムである。主に環境対策に取り組む企業の間でニーズが高まって いる。「自動車メーカーをはじめ,ものづくりの業界で軽量化や流体空力抵抗の軽減などの性能の改善に取り組む企業が数多くあります。例えば軽量化を図ることで,駆動系で消費するエネルギを削減できる など環境対策に役立つからです。ところが従来の考え方の延長で軽量化を進めることが,最近では難しくなっているようです。そこで威力を発揮するのが最適設 計システムです」(藤川氏)。
実際に,同社が提供しているノンパラメトリック構造最適設計システム『TOSCA』を利用して,さらなる軽量化を進める自動車関連メーカーが相次 いでいる。例えば,独AUDI社は,TOSCAを導入してトランスバースリンクの軽量化に成功した。独BWM社のエンジン用部品を開発している Federal-Mogui社も同ツールを利用して,耐久性を向上しながら10%の軽量化を図ったエンジン・ピストンを実現している。「最適設計システム を導入する大きな利点の一つは,従来の固定概念を脱却できるキッカケをもたらすことです。成功事例では,従来のパラメトリックなツールでは表現しにくかった形状を採用しながら,根本的に構造や形状を見直すことができたことが,軽量化を実現するカギとなったようです」(藤川氏)(図2)。
独自の「イニシャル・プロジェクト」戦略を加速
同社が設計最適化システムを軸にしたソリューションを展開する際に,採り入れているのがが「イニシャル・プロジェクト」と呼んでいる同社独自の顧客アプローチである。「最初に,私たちのソリューションを導入したことによって得られる具体的な成果を提案という形でお客様にお見せします。その提案を受け入れていただいたところからソリューションの導入に向けた動きを始めるのが,イニシャル・プロジェクトの基本的な進め方です」(藤川氏)。過去に成功した他社の事例を見せながら自社のソリューションを売り込むベンダーは多い。これに対して,同社は独自に検討した具体的な成果を提示し,これをキッカケに顧客との共同開発に着手。そこで実際に顧客の事業に貢献する成果を出したうえで,ソリューションの本格的導入を行うというのが同社のアプローチだ。「成果が得られるまでは,お客様と私たちはお互いに工数とノウハウを持ち出し,リスクをシェアしてプロジェクトを進めます。プロジェクトは長期にわたることもあり,こうした状況に対応するために弊社では,技術力の強化とノウハウの蓄積を進めるだけでなく,財政基盤の強化をしています」(藤川氏)。
同社が,こうした取り組みを進めているのは,具体的な成果を体感した企業には,提供したソリューションが着実に根付くと考えているからだ。「多く のソリューション・ベンダーは,お客様の業務プロセスに新しいツールやシステムを組み込むところまでをサポートしています。ところが,ここまでのサポート では,必ずしも成果につながるとは限りません。具体的な成果が出なければ,せっかく導入したツールやシステムの評判を落とすことになる可能性があります」(藤川 氏)。
ただし,顧客が納得するような成果を,いきなり顧客に見せることは容易なことではない。「説得力のある提案をするには,実際にものづくり現場を知っていて,なおかつ高い専門技術を持った技術者の存在が不可欠です。そこで,こうした技術者を積極的に採用しながら,自社における専門技術の強化を進め ています」(藤川氏)(図3)。実際に同社には,航空関連企業や自動車関連の企業で設計業務に携わっていた技術者が在籍しており,ターボ機械や自動車関連の構造最適化については,かなり高度な提案ができるという。さらに,同社は高いレベルの専門技術を抱える分野の拡大を図りながら,ビジネスの幅を拡げる考えだ。
製品の高性能化ニーズに対応,大規模計算を高速処理

図4 流体解析用大規模並列可視化ツール「FieldView Parallel」による解析事例(レーシングカー空力解析事例)
シミュレーションや解析の高度化にともなう計算量の増加などに見られる計算環境の変化への対応に関しても同社は,市場のニーズを先取りす る形で ソリューションをいち早く提供している。「例えば,大規模PCクラスタに対応するために処理の並列化を進めると,処理にかかわるプロセッサのコア数はどう しても増えます。これにともなって結果を表示する段階などで必要なポスト・プロセッサの負荷が急増することが大きな問題になってきました。こうした問題を 解決する ソリューションの一つとして提供しているのが流体解析用大規模並列可視化ツール『並列版FieldView』です」(藤川氏)(図 4)。同ツールは,大規模データをリアルタイムに可視化するために,評価に必要なデータを,効率よく抽出することでグラフィックス表示ス ピードを上げている。
このほかにも処理能力の要求に応じてPCクラスタで使用するCPUの数を増やし続けていると,計算にかかるコストが膨大になるという問題も浮上し つつある。そこで同社はクラウド・コンピューティングの技術を使って,CPUの数を一定に抑えながら,必要に応じて,適宜必要とされる処理能力を提供する新たなソリューションを開発中だという。
いま,ものづくりにかかわる製造業の多くが,ビジネス環境の大きな変化に直面している。ここでは従来の経験やノウハウでは解決できない様々な課題が浮上する可能性がある。こうした課題に対峙するものづくり企業にとって,固定概念にとらわれない斬新なビジネスモデルを次々と提供するヴァイナスは,強力な味方になりそうだ。
※ 会社名,製品名は,各社の商標もしくは登録商標です。
株式会社 ヴァイナス |







