Memory & Processor
システムの進化をけん引するメモリとプロセッサ
注目を集める「相変化メモリ」と「マルチコア」

桑原 弘幸氏
ニューモニクス・ジャパン合同会社
技術部 部長
メモリとマイクロプロセッサは,エレクトロニクス・システムの中核を支えるキー・デバイスだ。それぞれの分野で,いま注目を集めている技術に「相変化メモリ(PCM,phase change memory)」と「マルチコア・プロセッサ」がある。そこで,相変化メモリの技術開発と製品化で業界をリードするNumonyx社の日本法人ニューモニクス・ジャパン合同会社 技術部部長の桑原弘幸氏と,先進的な機能を備えたマルチコア・プロセッサ「QorIQ(コア・アイキュー)」を日本市場でビジネス展開するフリースケール・セミコンダクタ・ジャパン株式会社 ネットワーク・マーケティング担当部長の浜野正博氏 に,それぞれの技術の動向や最新製品などについて聞いた。両社のうち,アヴネットジャパンと密接に連携を図りながら相変化メモリの市場開拓に取り組むニューモニクス・ジャパンは,日本で開催される「X-fest」で,相変化メモリをテーマにした講演を行う。
——まず相変化メモリについておうかがいします。素子の基本的な仕組みを教えて下さい。
桑原氏:相変化メモリは,記録媒体となる材料の結晶構造を変化させることで情報を記憶する仕組みを利用した不揮発性メモリです。CDやDVDにも使われているカルコゲナイド(Chalcogenide)は,熱を加えることによって,アモルファス状態と結晶状態の二つの状態を切り替えることができます。しかも,それぞれまったく違う性質を示すのです。つまり,アモルファス状態では高抵抗。結晶状態では低抵抗になります。相変化メモリは,この仕組みをメモリセルに応用したデバイスです。セルを流れる電流の有無を検出し,カルコゲナイドの結晶状態を識別することによって,各セルに1ビットの情報を記録します(図1)。
高速,しかも大容量化で有利
——相変化メモリの特長は。
桑原氏:相変化メモリの大きな特長の一つは,データの書き込みや読み出しが既存のフラッシュ・メモリに比べて高速なことです。相変化メモリは,1ビットずつセルの状態を変化させることができるので,既存のフラッシュ・メモリのようにデータを書き換えるごとにブロック単位でデータを消去する処理が必要ありません。この分の時間を短縮できるわけです。しかも,読み出し速度もDRAM並みです。
もう一つ重要な特長は微細化を進めるうえで有利なことです。フローティング・ゲートを採用した既存のフラッシュ・メモリでは,セルが小さくなると蓄積する電荷の数が減るので,微細化が進むにつれてセルの中でのデータの保持が難しくなります。相変化メモリは電荷を蓄積してデータを保持するのではなく,セルの物性自身を変化させてデータを保持するので,セルが小さくなってもデータ保持に支障はありません。原理上は5nm世代のプロセスを使っても動作させることが可能と言われています。つまり既存のフラッシュ・メモリよりも微細化による大容量化を進めるうえで有利だということです。
——相変化メモリに対するNumonyx社の取り組みについて教えて下さい。
桑原氏:米Intel Corp.と伊仏STMicroelectronics社の合弁会社として生まれたNumonyx社は,NOR型フラッシュ・メモリをはじめとする様々な不揮発性メモリを手掛けています。次世代の不揮発性メモリである相変化メモリの開発および製品化にも積極的に取り組んできました。2008年末には90nmプロセスを使った128Mビットの相変化メモリを,業界でいち早く製品化しています(図2)。この製品は,従来から展開しているNOR型フラッシュ・メモリ「P33」と互換性を確保して,そのまま置き換えて使うことができるようにしました。
現在,この製品を前面に出して相変化メモリの市場開拓に取り組んでいるところです。その一環として2009年11月に開催された組み込みシステムの展示会「Embedded Technology 2009/組込み総合技術展」にも出展しました。ここでは,相変化メモリを使って構成した3秒間分のリングバッファに,USBカメラを使って撮影した動画データを随時書き換えながら保存するデモンストレーションを実施しました。連続した映像を再生しながらリングバッファへの書き込みがスムーズに行われているところを見せることで,高速でデータの書き込みや読み出しができるという相変化メモリの特長をアピールすることを狙ったものです。大勢の来場者の方が,この展示の前で足を止めて下さいました。このデモンストレーションを見て,相変化メモリの興味を持って下さった来場者の方も少なくありませんでした。
こうした取り組みと併行して,メモリ大手の韓国Samsung Electronics Co.,Ltd.と共同で相変化メモリの共通仕様を策定する取り組みも進めています。機器メーカーの皆さんに,より使いやすい形で相変化メモリを提供するためです。
技術開発にも引き続き積極的に取り組んでおり,最近では2009年10月にIntel社と共同で,メモリ・チップ上に相変化メモリ・アレイを積層した独自構造を備えたデバイスを発表しました。大規模なストレージ・システムなどで必要な大容量で低消費電力,しかも省スペースのメモリ・デバイスを実現するための技術です。
——技術が進化するにつれて,相変化メモリの用途はどんどん広がりそうですね。
桑原氏:そうですね。興味を持った技術者の方は,実際に相変化メモリを使ってみて,その可能性を実感していただきたいと思っています。今回のX-festでは主催者のアヴネットジャパンが,同社が扱うアナログ製品の評価できるボードを,3セッション以上聴講した来場者に無償で配布する予定です。実は,このボードにNumonyx社の相変化メモリが搭載されています。是非,入手して相変化メモリを,いち早く評価して下さい。
マルチコア化と独自制御機能で高効率を追求

浜野正博氏
フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン株式会社
ネットワーク・マーケティング担当部長
——続いてマルチコア・プロセッサについて,おうかがいします。従来のシングル・コアのままで性能を追求すると消費電力が膨大になってしまうという問題が顕在化したころから,プロセッサ・メーカー各社が一つのチップに複数のコアを実装したマルチコア・アーキテクチャを備えたマイクロプロセッサを製品化しています。フリースケール・セミコンダクタの「QorIQファミリ」もその一つですね。
浜野氏:「QorIQファミリ」は,ネットワーキング・アプリケーション,無線通信システムや基幹系サーバー・アプリケションなどの通信インフラ関連の用途に向けて展開しているプロセッサです。QorIQは,Power Architectureコアを搭載したマルチコア・プロセッサで,最新の45nmSOI(Silicon on Insulator)プロセスを採用しています。QorIQファミリでは,シングルコア,デュアルコア,4コア,8コアと豊富なラインナップを提供します。
用途に合わせて選択できるように,「P1」〜「P5」と性能や機能が異なる五つの品種を用意しており,このうちP1とP2は,通信システム向けプロセッサ「PowerQUICC」と同じ「e500コア」を搭載(図3)。P3〜P5は,e500をマルチコア用に拡張したe500mcを搭載しています。いずれも組み込み用に展開するために,高性能と低消費電力の両立を図っているのが特徴です。
——電力管理機能について説明して下さい。
浜野氏:一部の製品では,システムの待機電力削減に貢献する先進的な 電力管理機能を搭載しています。具体的には,「RUN」「JOG」「Deep-Sleep」など6種類もの動作モードが設定することが可能です。もっとも待機電力が低いDeep-Sleepモードでは, CPUコアや内蔵キャッシュメモリの電源を遮断。パケット受信など一部の処理だけ,CPUコアを介さないで続けることができるようになっています。これによって消費電力をわずか数百mWにまで削減することができました。しかも,Deep-Sleepモードから通常のモードへは,わずか数ミリ秒で復帰させることが可能です(図4)。
エレクトロニクス機器の多機能化や高性能化に対する要求は依然として続いている。この一方で市場では地球温暖化問題に対する関心が高まっていることから,低消費電力化に対する要求も一段と厳しさを増してきた。QorIQのようなコンセプトを備えたプロセッサと相変化メモリを組み合わせは,これらの問題を同時に解決するための有力なソリューションとなる可能性を秘めている。今回のX-festにおけるNumonyx社の講演では,プロセッサとの組み合わせを中心に相変化メモリがエレクトロニクス機器にもたらす様々な可能性についても紹介する。将来の進化を見据えた機器設計を目指す技術者にとって,有意義な講演となりそうだ。
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