高性能なミクスト・シグナル・ソリューションを提供するサイプレス・セミコンダクタは、デジタル回路とアナログ回路を自在にプログラミングできる「ミクスト・シグナル・アレイ」のPSoCのラインアップに、8051コアを搭載した「PSoC 3」と、ARMコアを搭載した「PSoC 5」を新たに追加した。高性能と高集積を両立したPSoC 3およびPSoC 5は、最高20ビットのA/Dコンバータなども統合できるほか、電源電圧を0.5Vにまで下げてもすべての機能が動作するなど、多くの特徴を備えている。センサーアプリケーションやメディカルアプリケーションおよびヘルスアプリケーションなど、さまざまな小型デバイスのコントローラとして最適だ。

吉澤 仁氏
吉澤 仁氏
日本サイプレス株式会社
代表取締役社長

高性能なミクスト・シグナル・ソリューションの提供で知られるサイプレス・セミコンダクタ(以下サイプレス)。そのサイプレスを代表する製品のひとつが「ミクスト・シグナル・アレイ」と呼ばれるPSoCである(図1)。

プロセッサコアを中心にデジタル回路やA/Dコンバータなどのアナログ回路を組み合わせて、アプリケーションに適した組み込みプロセッサを、ユーザーが自由に構成できるデバイスだ。組み込みエンジニアからの人気も高い。

小型化と低コスト化に大きな効果をもたらすPSoCは、携帯電話、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオ、ゲーム機といったモバイル機器を中心に、さまざまなアプリケーションで採用が進んでいる。「2003年にPSoCを発売して以来、ワールドワイドでの累計出荷数はすでに5億個を超えるまでになりました」(日本サイプレス 代表取締役の吉澤 仁氏)。最近では携帯端末のタッチスクリーンのコントローラとして国内で70%のシェアを獲得しているという(同社調べ)。

さらに2009年4月には、高機能なLED照明機器を手軽に実現したいというニーズに応えて、ハイパワーLED用の電源回路を内蔵した「PowerPSoC」を発売し、ラインアップの拡充を着々と進めてきた。

高性能マーケットニーズに応えるPSoC 3とPSoC 5

図1. デジタル機能とアナログ機能を自由に組み込めるPSoCに新たなファミリが追加された
図1. デジタル機能とアナログ機能を自由に組み込めるPSoCに新たなファミリが追加された

 同社が2009年9月に新たに発表した製品が「PSoC 3」と「PSoC 5」である。いずれも高性能を求めるPSoCユーザーの声を元に開発された。

従来のPSoC(以下では「PSoC 1」と表記する)は、サイプレス独自の8ビットMBCコアを搭載し、演算性能はおよそ4 MIPSであった。

これに対し、PSoC 3では業界で広く用いられている8051コアを搭載し、およそ33 MIPSの演算性能を実現した。またPSoC 5は、自動車などにも用いられている32ビットのARM Cortex-M3コアを搭載し、およそ100 DMIPS(Dhrystone MIPS)を実現している。

コアの性能向上と同時に、デジタル回路部およびアナログ回路部も強化した。デジタルサブシステムには2入力NAND換算で24,000ゲート相当のロジックを組み込むことが可能だ。Verilogで記述できるため、たとえば従来FPGAに実装していた周辺回路(グルーロジック)をPSoC 3やPSoC 5に簡単に統合できる。

外部インタフェースも拡充した。PSoC1ではUSB 2.0やI2C、UARTなどに限定されていたが、PSoC 3およびPSoC 5では車載ネットワークとして広く使われているCANとLINもサポートした。アナログ部分で特筆すべきはA/Dコンバータだろう。PSoC 1では最高13ビットのA/Dコンバータしか組み込めなかったが、PSoC 3およびPSoC 5では、最高20ビットの分解能を持つ192kSPSのデルタシグマ型A/Dコンバータと、1MSPSの性能を持つ12ビットの逐次比較型(SAR型)A/Dコンバータがサポートされた。これまでコストの高いディスクリートのA/Dコンバータを使っていたアプリケーションも、PSoC 3およびPSoC 5を使うことで、コスト削減と基板面積の小型化を図ることができる。

図2. PSoC 3およびPSoC 5の代表的な仕様
図2. PSoC 3およびPSoC 5の代表的な仕様

A/Dコンバータ以外にも、0.1%の高精度リファレンス、アナログ・マルチプレクサ、8ビットD/Aコンバータ×4、プログラマブルゲインアンプ(最大ゲイン50)、オペアンプ×4、コンパレータ×4などが利用できる。またLCDコントローラは736セグメントまでの液晶をドライブ可能だ。

これらのアナログブロックを組み合わせることで、加速度、バイオ、距離、流量、圧力や歪み、湿度、ポジション、角度、角速度、温度、振動、輝度など、さまざまなセンサーアプリケーションを簡単に構成できる。

PSoC 3およびPSoC 5のもうひとつの特徴が0.5Vから5.5Vという広い動作電圧範囲だ。一部の組み込みコントローラは低い電圧領域では性能や機能に制約が生じる場合があるが、PSoC 3およびPSoC 5は内部に昇圧回路を持っているため、0.5Vでもアナログ回路を含めてすべてが機能する。全体の消費電力も抑えられており、通常のアクティブモードでPSoC 3とPSoC 5はそれぞれ1mAと2mA、スリープモードでは1μAと2μA、さらにハイバネーションモードでは200nAと300nAにまで低下する。バッテリ駆動アプリケーションにも十分適用できる。

新たな統合開発環境PSoC Creatorを無償で提供

図3. デジタルとアナログの両方を強化したPSoC 3およびPSoC 5の内部構成図
図3. デジタルとアナログの両方を強化したPSoC 3およびPSoC 5の内部構成図

 PSoC 3およびPSoC 5の開発ツールとしては「PSoC Creator Integrated Development Environment(IDE)」が提供される。従来の開発ツールであるPSoC Expressと同じように、回路要素や外部ピンをドラッグ・アンド・ドロップ操作だけで構成できるほか、設計した回路規模に応じてPSoCデバイスを自動決定する機能が新たに追加された。2009年末にはVerilogを使った論理記述が可能になる予定だ。

PSoC CreatorにはPSoC 3およびPSoC 5のデバッグ機能およびトレース機能を用いたビルトインデバッガが統合されているほか、PSoC 3用に「Keil CA51」コンパイラとPSoC 5用に「GNU GCC-ARM」コンパイラがバンドルされる。

PSoC Creatorはサイプレスのウェブサイトから無償でダウンロード可能だ。組み込みシステムの開発においては開発コストの削減が常に求められるが、開発環境をコストゼロで構築できる点はPSoCのメリットのひとつだろう。

なお開発リソースとしては、PSoC Creatorのほかに、データシート、アプリケーション・ノート、オンライントレーニング、ビデオ、評価キットなどが提供される。

PSoC 3はサンプルをすでに提供中で、量産は2010年の第1四半期を予定している。また、評価キット「PSoC 3 FirstTouch Starter Kit」も有償だがすでに提供を開始している。PSoC 5はサンプルが2009年の第4四半期の予定で量産は2010年後半の計画だ。

図4. PSoC 3およびPSoC 5用に無償で提供される開発ツール「PSoC Creator」
図4. PSoC 3およびPSoC 5用に無償で提供される開発ツール「PSoC Creator」

「従来のPSoC 1はお客様から高い評価を頂戴してきましたが、高性能が必要なアプリケーションのニーズにはお応えすることができませんでした。今回新たに発表したPSoC 3およびPSoC 5は高性能と高集積を両立した画期的なソリューションです。これまで性能面などの制約で採用を見送られていたお客様も含めて、ぜひご検討いただきたいと考えています」(日本サイプレス 代表取締役の吉澤 仁氏)。

PSoCはきわめて簡単に内部の回路をコンフィギュレーションできるという特徴がある。ソフトウェアとの連動テストを早い段階から行えるため開発期間を短縮できるだけでなく、製品出荷直前まで回路をチューニングすることも可能だ。さらにフィールドにおいても回路を変更することができる。また、デジタルに加えてアナログ回路も構成できるため、ディスクリート部品で構成していたシステムを大幅に小型化することもできる。

新たなアーキテクチャをまとって一段とパワーアップしたPSoC 3とPSoC 5が、さまざまな組み込みシステムの価値を高めてくれるに違いない。

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