高性能なミクスト・シグナル・ソリューションを提供しているサイプレス・セミコンダクタは,2.4GHz帯を使った新たな無線プロトコル「CyFi」(サイファイ)を開発した。最大1Mビット/秒のデータレートをローパワーで実現できるのが特長だ。250個のノードを接続することができ,汎用性にも優れる。アナログ回路もプログラミングできる同社のロジックアレイ・デバイス「PSoC」(ピーソック)をコアに使い,手軽なソリューションとして提供される。

松添 信宏 氏
松添 信宏 氏
日本サイプレス
技術部
アプリケーションエンジニア
シニアスタッフ

無線の2.4GHz帯はISMバンド(産業・科学・医療バンド)とも呼ばれる。10mW以下の出力であれば免許を必要としないという手軽さもあり,民生用や産業用を含めさまざまな分野で応用が広がりつつある。代表的なところでは,WiFi(IEEE 802.11b/g/n)やBluetooth,ZigBeeがこのバンドを利用している。

この2.4GHz帯を使って,高性能なミクスト・シグナル・ソリューションを提供しているサイプレス・セミコンダクタ(以下サイプレス)が新たに展開するのが,「CyFi Low Power RF」と呼ぶ無線ネットワーク・ソリューションである。

同社のプログラマブル・マイコンPSoCをコントローラとして用い,CyFiプロトコル・スタックと,CyFi専用のトランシーバICとを組み合わせたコンパクトなソリューションだ。ソリューションの名称からもわかるようにローパワー動作が特長のひとつである。「当社はこれまで,キーボードとマウス向けの2.4GHz帯ソリューションとして『WirelessUSB』を提供してきました。今回新たに開発したCyFiは,より汎用的な応用に対応した2.4GHz帯のプロトコルで,低消費電力などの特長を備えています」(日本サイプレス 技術部 アプリケーションエンジニア シニアスタッフの松添信宏氏)。

CyFiの具体的なアプリケーションとしては,センサ・ネットワーク,家電のリモコン,産業用途のモニタリング,ヘルスケアや医療,農業や畜産の環境監視,ホームセキュリティなどを想定する。

スター型の汎用かつ軽量なプロトコル

図1 CyFiソリューションを構成する3つのコンポーネント
図1 CyFiソリューションを構成する3つのコンポーネント
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CyFiソリューションは3つのコンポーネントで構成される(図1)。ひとつは同社がミクスト・シグナル・アレイと呼ぶPSoC(Programmable System on Chip)だ。デジタル回路だけではなくアナログ回路もプログラムできる。FPGAのミクスト・シグナル版と表現すれば分かりやすいだろう。最大14ビットのA-Dコンバータ,最大9ビットのD-Aコンバータ,2ポールのフィルタ,モジュレータ,アンプ,コンパレータといったアナログ・モジュールをFPGAを設計する感覚で構成できるというユニークなデバイスである。もちろんデジタル回路の搭載も可能だ。I2CやUSBなどのインタフェースも用意されている。PSoCのプロセッサ・コアは8ビットで,最大32Kバイトのフラッシュ・メモリと最大2KバイトのSRAMを内蔵する。

 「PSoCは当社が2003年に発表した製品で,すでに6000社以上に採用され,累計出荷数は3億個を超えています。手軽に使えるため,組み込みエンジニアの皆様からも高い評価を得ています」(松添氏)。CyFiソリューションを構成する際には24MHz動作品を選択する必要がある。

もうひとつのコンポーネントであるCyFi Star Network Protocolスタックは,PSoCに組み込んで利用するファームウェアだ。CyFiはISMバンドを使う他のプロトコルに比べて軽いという特長があり,ネットワーク・スレーブに相当する「ノード」として使う場合で約5.5Kバイト,マスタに相当する「ハブ」として使う場合で約8Kバイトと小さい。PSoCの残りのフラッシュ容量はアプリケーションに利用できる。CyFi Star Network ProtocolスタックはCyFiソリューションを利用するユーザーには無償で提供する。

CyFiを構成する最後のコンポーネントがCyFiトランシーバの「CYRF7936」だ。CyFi Star Network Protocolに対応した専用チップである。日本および欧米の無線通信規格に適合している(国内はARIB STD-T66)。

ダイナミックな通信制御で干渉に対応

CyFi Star Network Protocolの転送レートは最大1Mビット/秒。広帯域を必要とする動画などの伝送は想定していないものの,センサー出力のやりとりなどには十分なスピードだ。占有帯域は1MHzで,チャネル数は83チャネルである(国内では80チャネルのみ利用可能)。

ネットワークのトポロジーはプロトコルの名称が示すようにスター型である。ハブと呼ぶマスタに250個のノードをぶら下げることができる。階層構成にも対応しており,あるネットワークのノードを別のネットワークのハブとして動作させることも可能だ。  

ところで2.4GHz帯を使った通信では,ほかのネットワークとの干渉が問題になる。冒頭で述べたように,WiFi(IEEE 802.11b/g/n),Bluetooth,ZigBeeのほか,コードレス電話や電子レンジがこの帯域を使用しているためだ。

図2 (a)チャネルを自動的に切り替えるActive Link Management,(b)干渉の度合いによって送信出力を増大
図2 (a)チャネルを自動的に切り替えるActive Link Management,(b)干渉の度合いによって送信出力を増大(クリックで拡大します)

CyFiでは2つの手法で干渉に対応するとともに通信の信頼性を確保している。ひとつはDSSS(直接スペクトラム拡散)の採用だ。ベースバンド信号を高い周波数信号で変調して,スペクトルを周波数方向に拡散させる手法である。PN(擬似ノイズ)符号を用いて,ひとつのデータビットを4個または8個のチップ(符号ビット)に割り当てる。DSSSをオンにした場合,実効転送レートは250kビット/秒(1:4)または125kビット/秒(1:8)に低下する。

もうひとつの干渉制御がActive Link Management(図2)だ。干渉が検出されたときにチャネルをダイナミックに変更して,空いている周波数に自動的に切り替える。さらに,最初は-5dBmで送信し,干渉が検出された場合にDSSSを有効にし,それでも通信障害が発生する場合に出力パワーを最大+4dBmに高めるような制御も可能だ。

以上のDSSSやActive Link ManagementはCyFiのプロトコルスタックからオンまたはオフを設定できるほか,それぞれの優先度を設定することができる。「システムの要件に応じて,転送レートが優先される場合はDSSSを無効にして1Mビット/秒に固定する,あるいは消費電力をできるだけ抑えたい場合は干渉があっても送信出力を増大しない,といった使い方が可能です」(松添氏)。

充実した開発環境を提供

CyFiソリューションの特長のひとつが消費電力の小ささだ。CyFiトランシーバであるCYRF7936だけでみると,-5dBmでの送信時消費電流は20.8mA,受信時は21.2mA,スリープ時はわずか0.8μAである。CR2032などのボタン電池でも長期間にわたって動作させることが可能だ。工場ラインのモニタリングや農業・畜産などの状態監視ではAC電源を使えない場合も多く,バッテリーで動かせる点はCyFiの大きなメリットのひとつといえるだろう。

図3 PSoCの開発環境であるPSoC Designer
図3 PSoCの開発環境であるPSoC Designer
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開発サポートとしては以下のものが用意される。まずPSoCの開発ツールとしてPSoC Designerが提供される(図3)。アナログやデジタルのコンポーネントをドラッグ&ドロップするだけで回路を構成できるグラフィカルなツールだ。「アナログ回路をわずか60分で開発できると言われるほど,PSoC Designerを使った設計は簡単です」(松添氏)。CyFi Star Network Protocolスタックもドラッグ&ドロップで組み込むだけだ。

CyFiの習得と評価を目的とした「FirstTouch」という開発キットも提供する(写真1)。同社のWebサイトか日本国内の代理店経由で購入できる。基板には,温度センサ,静電容量センサ,光センサ,ジャイロ・センサなどが搭載されているため,センサ・アプリケーションを手軽に評価できる。

写真1 CyFiの開発キット「FirstTouch」
写真1 CyFiの開発キット「FirstTouch」

ワークショップもある。同社はPSoCの開発ワークショップを定期的に開催しているほか,FirstTouch を使ったCyFiのワークショップを2009年3月24日(大阪)と31日(東京)に行う予定だ。さらに5名以上の参加者が集まる場合には個別ワークショップの相談に応じるという。

技術サポートとしては,このほかに,リファレンス回路や,プリント基板の配線パターンを利用するプリント・アンテナの設計情報などが提供される。

「CyFiは低消費電力のほかに初期コストが低いといったメリットがあり,センサ・ネットワークなどの構築に最適です」(松添氏)。これからの発展が楽しみだ。

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