デジタル全盛のなかで,アナログを再認識する半導体メーカーが増えている。デジタル・チップの差異化にアナログが不可欠なうえに,アナログに注力するメーカーの利益率が高いことがその理由だ。アナログ・デバイセズは,こうしたアナログ注力企業の代表格である。1965年の創業以来,アナログ重視の戦略を堅持する。アナログ市場で高い競争力を示す同社の日本法人社長を務める馬渡修氏に,同市場における今後の戦略などについて聞いた。

アナログ・デバイセズ
代表取締役社長
馬渡 修氏
——アナログ・デバイセズは,コンバータ市場とアンプ市場でシェア・トップの地位にあります。こうした強い地位を築けた理由は何でしょうか。
馬渡 当社の高い技術力が最大の理由です。高い技術力があるため,競合他社には簡単にまねできない高性能なコンバータやアンプを開発することが可能で,こうした高性能品を電子機器メーカーが選んでくれるわけです。
最近では,モノリシックA-Dコンバータで分解能が16ビット,標本化速度が125Mサンプル/秒の高性能品を市場に投入しました。この数字を見れば,一昔前では考えられないようなレベルまで高性能化が進んでいることをご理解いただけるでしょう。
——高性能なアナログICは,どのような電子機器に搭載されていますか。
馬渡 産業(インダストリー)機器でも,民生機器でも広く使われています。

写真1 ● CERNの大型ハドロン衝突型加速器
原子よりも小さな素粒子を衝突させ,その結果として生成された破片の計測にアナログ・デバイセズのA-Dコンバータが10万個以上採用された。
(クリックで拡大)
例えば,デジタル・スチル・カメラです。高性能なA-Dコンバータを使えば,画素数が非常に多くても,短時間に何枚もの写真を撮影できるようになりますし,高精細ビデオの撮影も可能になります。最近,1800万画素で1秒間に何枚もの連写ができる機種が登場していますが,そうした機種は高性能A-Dコンバータなしには実現できません。
さらに医療分野でも高性能なA-Dコンバータは活躍しています。CTスキャナで高性能なコンバータを採用すれば,一度に取得できるスライス(断層画像列数)を大幅に増やせます。かつては16列程度でしたが,現在では128列以上もの撮影が可能です。この結果,従来は難しかった病巣の発見が短時間でできると同時に,患者が浴びる放射線量を大幅に削減できるようになります。
このほか,欧州原子核研究機構(CERN)の粒子加速器「大型ハドロン衝突型加速器」に当社の高性能コンバータが採用されたことも、当社製品の性能や信頼性が高く評価されている証明だと思います(写真1)。
アナログの最大市場に挑戦
——コンバータとアンプのほかに,今後注力しようと考えている製品分野にはどのようなものがありますか。
馬渡 DC-DCコンバータなどの電源(パワー)ICに注力する考えです。
先日,当社のユーザーに製品の認知度を聞くアンケートを行ったところ,認知度が高い上位3品種にアンプ,コンバータ,電源ICが選ばれました。この結果には,正直なところ驚きました。アンプとコンバータは市場シェアがトップ・クラスなので,上位に来るのは納得できますが,電源ICについては当社のシェアはトップ10に入るか入らないかという状況だからです。
なぜ,電源ICが上位3品種に入ったのでしょうか。恐らく,当社に対する期待の現れだと思います。電源ICは,アナログICのなかで最も市場規模が大きな分野です。つまり,ユーザーの認知度が高いというブランド力が既にあるうえに,市場機会も大きい。実際に,開発リソースの強化を始めています。5年後までに売上高を5倍に増やし,市場シェアでトップ5に入りたいと考えています。
今後,注力する製品分野はもう一つあります。それはMEMSです。当社は,MEMS技術で製造した加速度センサを1990年代初めから実用化し,自動車のエアバッグや家庭用ゲーム機などさまざまな用途で採用されています。
しかし今後は,これまでとは異なるアプローチでMEMSに取り組みます。従来のように単体のMEMSチップを販売するだけでは競合他社品と差異化が図りづらいため,価格圧力を受けやすくなります。MEMSにアナログ回路やデジタル回路を組み合わせ集積化することで,新たな価値をMEMSチップに付加していくつもりです。
タレントのある場所へ進出
——高性能なアナログICを継続的に市場に投入できる理由は何ですか。
馬渡 エンジニアの能力(タレント)を重視していることが理由でしょう。
当社のデザイン・センターは世界30カ所以上にあります。売り上げの規模から考えればとても多い数です。これは「タレントが集まる場所に作る」という方針を採っているからです。
デザイン・センターは,日本にもあります。ここで働くエンジニアは日本人が中心ですが,米国や上海など各地のデザイン・センターと連携して製品開発に取り組んでいます。
——国内のエレクトロニクス業界では,韓国や台湾,中国などのアジア企業の台頭によって開発力の低下を指摘する見方があります。
馬渡 国内メーカーの開発力は,低下しているとは思いません。依然として,世界でも高いレベルにあります。
問題は,ビジネス・モデルにあるのではないでしょうか。良い製品を開発しても短期間で技術的に追いつかれ,最終的な量産はアジア企業に持っていかれてしまう。こうした状況を改善するために,ビジネス・モデルの再考が不可欠です。
国内のエレクトロニクス業界にとっては,若い世代の理工系離れの方が大きな問題でしょう。さらに,電子機器メーカーにおいて,アナログ回路を理解できるエンジニアが減っていることも懸念材料です。2年ぐらい前から,アナログIC単体ではなく,リファレンス・ボードで納入してほしいという要求が増えてきました。開発スピードを高めることが狙いだと思いますが,こうした状況が長期間続くと技術力の低下を招き,製品開発力の弱体化につながらないか少し心配しています。
そこで当社では,国内メーカーのアナログ技術力の維持に貢献するために,お客様を対象にしたセミナーやトレーニングを精力的に開催しています。Webサイトにおいても,アナログ技術コミュニティ向けBBS(電子掲示板)を展開し,エンジニア同士の活発な技術交流の場を提供しています。
——アナログ・デバイセズが求めるエンジニアとは,どのような人材でしょうか。
馬渡 当社は外資系企業です。従って,国内のお客様と海外の事業担当者の間に立ち、双方の利害を理解したうえで最善の解を導き出す役割が求められます。単なるメッセンジャーではなく,高度な状況把握力やコミュニケーション能力が必要なのです。
さらに,当社は少数精鋭の企業です。一人のエンジニアが担当する仕事の幅がとても広くなります。当然,責任も重くなります。しかし,裏返して見れば,それだけやりがいのある仕事だといえるでしょう。チャレンジ精神旺盛な方には最適な職場です。
もちろん,エンジニア教育には力を入れています。景気が低迷するなか,海外出張を制限する企業が多いようですが,当社は11月に数十人のFAE(field application engineer)を米国ボストンに派遣しました。年に2回開催される世界規模のFAEトレーニングに参加させるためです。1週間みっちりトレーニングを受けることで,技術情報をアップデートするだけでなく,海外で同じ仕事に取り組む人たちと交流を重ね,人間としてさらに成長して帰ってきてくれました。
※ 会社名、製品名は、各社の商標もしくは登録商標です。
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