かつてはアナログ回路の独壇場だったオーディオの世界にもデジタルの波が押し寄せている。巨大な電源コンデンサやディスクリート部品で構成するアナログアンプ回路に代わって,オーディオ信号をPWM(パルス幅変調)波形として増幅するデジタルアンプが主流になりつつあるのだ。アナログおよびミクストシグナルのデバイスで業界をリードするインターシルのデジタル・アンプ「D2Audioファミリ」は,コンシューマ機器をはじめハイエンドオーディオ機器にも搭載されるなど市場からの評価も高い。さらなるローコスト化を図った新しいD2Audioデジタルアンプを紹介しよう。

大三川喜朗氏
米Intersil Corp.
D2Audio製品担当Senior Product Marketing Manager
デジタルアンプとしてさまざまなデバイスが市場に登場しているが,音質に優れ,しかも設計やチューニングが容易なデバイスはごく限られる。その代表格がここで紹介するインターシルのD2Audioファミリである(図1)。D2Audioは2002年に創業したデジタルオーディオ専業メーカーの旧D2Audio社が開発した技術をベースにした製品だ。なお同社は2008年7月にインターシル傘下に加わっている。「D2Audio製品はハイエンドを含むオーディオ製品に採用されているほか,音質に厳しいTHXシステムの最高規格であるTHX Ultra2の認証をいただくなど,市場からきわめて高い評価を得ています」(米Intersil Corp.でD2Audio製品を担当する大三川喜朗氏)。
D2Audioファミリが音質に優れる理由をいくつか挙げてみよう(図2)。ひとつはサンプル・レート・コンバータ(SRC)を入力段に置いていることだ。通常のデジタルアンプは入力信号に過度なジッタが存在すると歪みが増大してしまう。D2AudioはSRCでの再サンプリングによって入力段と後段の時間領域を分離しているため,入力信号にジッタが存在しても音質に影響が及ばない。
もうひとつはDSP(デジタル信号処理プロセッサ)を内蔵している点だ。小型のオーディオ製品では,小型スピーカーでも豊な臨場感と幅広い音域が得られるように,音質のチューニングや音場処理が必要になってくるが,PWM段しか持たないようなシンプルなデジタルアンプではそのような処理は不可能だ。D2Audioは高度なDSPを内蔵しているため,装置の条件や使用者の好みに応じて音質を自在にチューニングすることが可能だ。詳しくは後述する。
3つめの特徴は旧D2Audio社が独自に開発したPWMエンジンだ。一般のデジタルアンプのPWM段はノイズが多いことで知られ,後段にノイズ シェーピング用の高次フィルタ段を設けたり,EMIについて多大な注意を払ったりする必要がある。一方,D2AudioのPWMエンジンはきわめてノイズ の少ない設計になっているため,PWM出力にローパスフィルタとしてコンデンサを接続するだけ、DAC出力としてでも十分に実用になる。
なお,これらの特徴を備えたD2Audioの概要については,この特集のバックナンバーのうち,「高品質,インテリジェントなフルデジタル・アンプを業界に先駆け実現」をご一読いただきたい。
ローエンドからミドルレンジの製品ニーズに応えるローコストアンプ
D2Audioファミリに新たに加わったデバイスが,ローコスト版のDAE-4(型番D2-41x51)およびDAE-4P(型番D2-45x57)である(図3)。2つの違いはパワーFET段で,DAE-4は外付け,DAE-4Pは内蔵だ。
ファミリ製品のDAE-1,DAE-2,DAE-3がどちらかというとハイエンドを志向していたのに対して,DAE-4xはローエンドからミドルレンジのオーディオ装置を対象にしている。具体的には,シリコンオーディオプレーヤ用のスピーカーステーション,画質や音質を重視したミッドレンジ以上のデジタルテレビやスピーカー台,およびオーディオコンポなどの製品だ。
「DAE-4xは音場処理のDSPプログラムをすべてROM化するなどの工夫でダイの小型化を図り,低コスト化を実現しました。ただし音質はD2Audioファミリを踏襲しており,一切の妥協はしていません。すでにミッドレンジクラスのスピーカーステーションを中心に多くの引き合いをいただいています」(大三川氏)。サンプル価格は1000個注文の場合でDAE-4が1.64米ドル,DAE-4Pが2.88米ドルと手ごろである。
図3.ローエンドからミドルレンジのオーディオ機器をターゲットとしたDAE-4P。 パワーFETを内蔵しており30W(8W、THD=10%、Vcc=25V)のステレオ出力が可能だ。より大出力あるいは2.1チャネル出力が必要な場合はDAE-4を使用する。 (クリックで拡大します)DAE-4xの主な仕様は次のとおりだ。まず入力はデジタルオーディオで標準となっているI2S(Inter-IC Sound)バスおよびS/PDIF(Sony Philips Digital Interface)に対応する。SN比は最終出力段などにも依存するが,同社の評価ボードでの実測では108dBが得られているという(図4)。THD(高調波歪み)は0.1%以下ときわめて小さい。
パワーFETを内蔵していないDAE-4は2.1チャネル出力(ステレオ+サブウーファー)が可能だ。パッケージは48ピンである。一方のパワーFETを内蔵したDAE-4Pは,2チャネル構成で30Wを出力できる。ハーフブリッジ構成にすれば8Wで4チャネル構成も可能だ。ただし2.1チャネルには対応していない。パッケージは68ピンである。
いずれのデバイスもインテリジェントなプロテクション機能を備えている。たとえば出力短絡を検出した場合,一定時間の経過を待って最大で10回リトライし,それでもなお短絡状態が解消されない場合は自らをリセットする。過電流やオーバーヒートを検出した場合はゲインを自動的に下げて電流値を減らすような機能もある。オーディオ製品によってはスピーカーの接続がユーザー任せになる場合も多いため,製品の安全性を高める意味でも,このようなプロテクションは不可欠といえよう。
図4.DAE-4xの評価ボード左側がDAE-4Pを搭載した評価ボードで2チャネルステレオ出力が可能だ。右側はDAE-4を搭載した評価ボードで2.1チャネル出力に対応する。(スピーカーは付属しません) (クリックで拡大します)
装置の構成にあわせた音質のチューニングが専用ツールで簡単に
DAE-4xの特徴のひとつが内部のDSPの動作を外部から簡単にコントロールできる点だ。同社が評価ボードとともに無償で提供する 「Sound Canvas」というツールを使うことで,入力から出力までのシグナルフローをグラフィカルに確認しながら,楽曲の再生中であってもパラメータ をリアルタイムで変更することができるという機能である(図5)。なおパラメータを変更しても再生音に不快なノイズが出ることはない。
倍音成分を強調して聴覚上低音が出ているように錯覚させる「DeepBase」,奥行き感や広がり感を出す「WideSound」,テレビ画面の中央付近から音が出ているように感じさせる「AudioAlign」といった各種のエフェクト機能のほか,イコライザ,トーンコントロール,クロスオーバー,ボリューム,ラウドネス,ダイナミックレンジコンプレッサなどの調整が可能だ。
図5.
楽曲を再生しながらDAE-4xの音質をリアルタイムかつグラフィカルにチューニングできる「Sound Canvas」ツール。マウスで「つまむ」ようにして周波数特性を合わせこめる。DAE-4xの評価ボードに同梱される。 (クリックで拡大します)つまり組み込むスピーカーやエンクロージャの特性に合わせた音作りができるということで,装置メーカーとしては付加価値になるだろう。パラメータをDAE-4xにプログラミングするには,製品に小規模のマイコンを搭載しておきI2C経由で制御する方法が適当だが,パラメータをシリアルROMに書き込んでおくローコストな方法もある。なおインターシルでは,製品にあわせた音質パラメータのチューニングサービスについても相談に応じている。
最後に大三川氏は次のように述べた「音楽は人生を豊かにしてくれますし,また映像の迫力も高めてくれます。音質に妥協をせずにローコスト化を図ったDAE-4xが奏でる音が,今後さまざまなシーンで多くの人々を楽しませてくれるものと期待しています」。
ポータブル機器やデジタルAV機器は薄型化などが進み,スピーカーサイズが小さくなるとともに,ステレオサウンドを得るには不適切な場所に搭載される場合も増えてきた。そのため,いい音を出せずに悩んでいる製品開発者も多い。そのような場合はぜひ評価ボードを入手してDAE-4xの実力を確かめてみてはいかがだろう。驚くようなクリアで広がりのあるサウンドが得られるはずだ。
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