パワーデバイスのリーディング・カンパニーであるインターシルは,応答性能にきわめて優れた「R4テクノロジー」というスイッチング電源方式を開発した。プロセサやグラフィック・ユニットなど,処理内容によって負荷電流が大きく変動するデバイスやサブシステムに対して安定した電圧を供給できる。また,R4テクノロジーは外部補償回路を必要としないため,電源を専門としないエンジニアでも,高性能な電源回路を比較的簡単に構成できるというメリットがある。ソリューション・サイズが小さい点も見逃せない。汎用電源からPOL(ポイントオブロード)電源まで幅広い応用に最適だ。

青木 啓次 氏
インターシル株式会社
リード・フィールド・アプリケーション・エンジニア
電源回路の設計には「難しい」あるいは「厄介だ」というイメージがどうしても付きまとう。過去には設計チームのなかにアナログや電源を専門とするエンジニアがいたものだが,最近では回路のデジタル化が進んだことなども背景となって,デジタル・エンジニアが電源設計を付帯的に担当するケースが増えてきた。しかし,コンデンサや抵抗といった受動部品やMOSFETなどの能動部品で構成される電源回路は,動作が「1」と「0」で論理的に導き出せるデジタル回路とは違って,デジタル・エンジニアからすれば挙動がなかなか理解しづらい。
スイッチング電源回路を特に複雑に感じさせるのが帰還ループと補償ネットワークの存在だろう。出力電圧を規定の範囲に安定させるため,出力電圧(厳密には負荷点の電圧)をコントローラにフィードバックするのだが,出力をそのまま戻したのでは系が持つ遅れなどによって制御が行き過ぎてしまう場合があり,出力にオーバーシュートやアンダーシュートが現れたり,条件によってはきわめて不安定な動作状態に至ることもある。
このようないわば「ハンドルの切り過ぎ」を防いで系全体を安定させるのが,帰還ループに挿入する補償回路だ。しかし,一般にハイパス・フィルタとして構成される補償回路は,最初の減衰が始まる「カットオフ周波数」のほか,減衰の傾きが変化するポイントを表す「ポール」や「ゼロ」といったフィルタの特性を正しく理解し,そのうえで補償回路を構成する抵抗とコンデンサの定数を決めなければならない。

図1 4個の外付け部品で回路を構成できるインターシルの「ISL95210」
「電源回路の設計にはリファレンス回路やオンライン・シミュレータなどがベンダーから提供されるため,実質的な設計負荷はそれほど高くはありません。しかし,『補償』や『フィルタ設計』といった用語を聞いただけで心理的な抵抗感を持つお客様も少なくないのが実際のところです」(インターシルでリード・フィールド・アプリケーション・エンジニアを務める青木啓次氏)。さらに,設計した電源回路の挙動が不安定になったときに,補償回路を含めた解析ができないのではないかと危惧を抱く場合もあるだろう。
MOSFET内蔵品はわずか4個の受動部品で電源回路を構成
パワーデバイスのリーディング・カンパニーであるインターシルは,外付けの補償回路を一切必要としない新しいスイッチング電源コントローラを開発した。
本特集ですでに触れた「R3テクノロジー(Robust Ripple Regulator:アールキューブ)」をさらに改良した「R4テクノロジー」(Rapid R3)を採用したコントローラ・ファミリである。
R4テクノロジーの第一弾となる製品が「ISL95210」だ(図1)。10AのMOSFETを内蔵するとともに外部補償を必要としないため,わずか4個の外付け部品だけで電源回路を構成できるという,小型かつ手軽なソリューションである。「リファレンス回路の場合でソリューション・サイズはおよそ15.4mm×15.5mmです(図2)。MOSFETを内蔵するISL95210は,あらゆる分野の小型化のニーズにお応えできるものと考えています」(青木氏)。しかも,後述するように負荷変動に対する応答特性がきわめて優れているため,出力コンデンサ容量をそれほど必要としない点も特筆される。
ISL95210のそのほかの特徴は次のとおりだ。入力電圧は5.0Vである。出力電圧は0.60Vから1.80Vの範囲の9電圧を2本のピンで選択できる。スイッチング周波数は,およそ800kHz,550kHz,400kHzのいずれかを選べる。また,回路の動作マージンを出荷時やフィールドでテストできる「マージニング」機能を備えていて,最大で±20%の幅で出力電圧を上下することができる。
大電流用途に対応したMOSFET外付け品も開発
図3 「ISL95870」の評価ボード中央のやや左下にあるのがISL95870で,その周辺は電圧設定用のチップ抵抗がある。中央の四角は出力インダクタ,その右辺と下辺にあるのが出力MOSFET(ハイサイドとローサイドそれぞれ2個ずつ) (クリックで拡大します)
「ISL95870/870A/870B」はMOSFETを内蔵しないR4テクノロジー電源コントローラだ(図3)。必要な出力電流に応じてMOSFETを選択できるため,20Aから30Aクラスの電源回路を構成することができる。MOSFETを内蔵していないためデバイスのパッケージはきわめて小さく,ISL95870の場合でわずか2.6mm×1.8mmである(870Aは3.2mm×1.8mm,870Bは3mm×4mm)。なお,3品種の違いは出力電圧の設定方法だけであり,基本的な挙動は同じだ。
代表的な仕様は次の通りだ。入力電圧は3.3Vから25V,出力電圧は0.5Vから3.3V,最大負荷電流は30A,ハイサイドおよびローサイドMOSFETのドライバを内蔵している。前述のISL95210に比べると電流センスや電圧設定用に若干の外付け抵抗を必要とするが,補償回路はもちろん不要である。
幅広い用途に手軽に使えるR4テクノロジー
R4テクノロジーには,前述のように外付け補償回路を必要としないというだけではなく,負荷変動に対する応答性がきわめて速いという特徴がある。
R4テクノロジーのベースとなっているR3テクノロジーは,負荷応答性に優れたリップル・レギュレータと,リップルが少なく出力電圧精度に優れた電圧モード・レギュレータの長所を組み合わせた方式だ(詳しくは「ノート型パソコンを支えるインターシルの電源技術/負荷変動への高速な追従と高い電圧精度を両立」を参照)。
図4 負荷電流をおよそ0Aから10Aに急激に変化させたときのスイッチング波形(上)と出力電圧波形(下)出力アンダーシュートはおよそ96mVと小さい(100mV/div)。コントローラISL95210,出力電圧1.35V,出力インダクタ0.42μH,出力コンデンサ220μF(ESR 5mΩ)
(クリックで拡大します)
R4はR3をベースにしながらエラー・アンプやコンパレータで構成される内部のDCループ・ゲインを下げて応答性能をさらに高めた(図4)。また,ループ内にゼロを追加して位相マージンを確保し,外付けの補償回路がなくても,規定の動作条件範囲全域にわたって安定した動作を確保した。
「外付け補償を必要としないスイッチング電源コントローラは従来から存在しましたが,応答性能は一般的な電源コントローラレベルにとどまっていました。一方R4テクノロジーなら,FPGAやGPU(Graphical Processing Unit)のようなパワー・ハングリーかつ負荷変動の大きなデバイスに対しても安定した電力を供給できますし,補償回路の設計や定数のチューニングで頭を悩ませる必要もありません」(青木氏)。
なおインターシルでは,R4テクノロジーを搭載したスイッチング電源コントローラ・ファミリの拡充を目指す計画である。特性の優れた電源コントローラを探している電源エンジニアにとっても,あるいは手軽に電源回路を構成したいと願っているデジタル・エンジニアとっても,強力な味方になるだろう。
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