今日の産業機器がますます複雑化するにつれ,それらの電源部分の複雑さも劇的に増している。それに対応して,複数の出力電圧を必要とするシステムでは,電源を体系的に制御することが求められ,シーケンシング,トラッキング,マージニングのような異なる機能は電源設計において欠かせない存在となっている。パワー・デバイスのリーディング・カンパニーであるインターシルは,このようなシステム側の高度な要求を満たすスイッチング・レギュレータ「ISL6540A」を開発した。ここではISL6540Aの数ある機能の中でも,システムの信頼性の鍵を握るマージニング機能に焦点を当ててその技術内容を解説し,合わせて電源回路の位相マージンなどを手軽に確認できる設計環境についても紹介する。

ダーナンジャイ・クマール・シン氏
インターシル
シニア・フィールド・アプリケーション・エンジニア
社会のデジタル化に伴って,企業や工場の活動を支えるサーバーやネットワーク機器,あるいは産業用機器には,ますます高い信頼性が要求されている。こうした機器は,過酷な環境においても確実な動作を保証するために,動作マージンを考慮した設計が行われているのが普通だ。
マージン検査として比較的よく行われるのが高温環境でのエージング試験だろう。高温環境下で負荷の高い処理を実行させて,動作に問題がないことを確認する試験である。
電圧のマージン試験も一般的だ。トランスなどを使って商用電源(AC 100V)の電圧を降下させる試験方法のほかに,電源ユニットやPOL(負荷点電源)の出力電圧を降下させて,サブ回路の電圧マージン試験を行う方法がある。
後者の場合,厄介なのが電圧調整回路の実装だ。一般的なスイッチング・レギュレータで出力電圧を調整するには,電圧設定抵抗ネットワークの分圧比を,アナログ・スイッチなどを追加して切り替えられるようにしなければならないからだ。外付け部品が増えるほか,帰還ループに部品を追加することになるため,出力電圧精度などに影響が及ぶ可能性もある。「情報機器の開発に携わっている多くのエンジニアの方々から,電圧マージン試験をもっと手軽に行いたいというニーズが寄せられています」(インターシルでシニア・フィールド・アプリケーション・エンジニアを務めるダーナンジャイ・クマール・シン氏)。
ミクストシグナルおよびパワー・デバイスのリーディング・カンパニーとしてさまざまなパワー・ソリューションを展開しているインターシルでは,このような電圧マージン試験のニーズに応える高機能なスイッチング・レギュレータを提供している。今回は「ISL6540A」を紹介しよう。
マージニングをはじめ多くの機能を搭載したDC/DCコンバータ
ISL6540Aは前述の「電圧マージニング」機能を含むさまざまな機能を搭載した汎用のDC/DCコンバータだ(図1)。電源トポロジーは一般的な電圧モード制御の降圧(バック)型である。
主な仕様は以下のとおりだ。まず入力電圧は+3.3Vから+20Vである。+3.3V,+5.0V,+12.0Vなど,業界標準の電源規格がそのまま使える。最大負荷電流は,使用する外付けMOSFETの定格にもよるが,10Aから40Aが可能だ。負荷点の電圧を差動信号としてセンスする高精度なリモート・センスを備え,内部の基準電圧源を用いたとき,全温度範囲にわたって0.6%の電圧精度を実現している。スイッチング周波数は250kHzから2MHzの範囲である。
そのほか,電源シーケンスを実現するパワーグッド信号の遅延機能(ユーザー設定可),オーバー・ボルテージ保護とアンダー・ボルテージ保護,ハイサイドとローサイドの過電流保護(ソース電流およびシンク電流をセンス),入力電圧の変動に合わせて内部ゲインを自動的に調整するユニフォーム・モジュレータ・ゲイン機能,電圧トラッキングを可能にする内部基準電圧出力および外部基準電圧入力(たとえばDDRのVDDQとVTTQのトラッキング),プリバイアス・スタートアップ,といったさまざまな特徴を備えている。いわば「フル機能」のレギュレータである。
続いて電圧マージニング機能について説明しよう(図2)。ISL6540Aは設定した電圧に対して,プラス側の振れ幅とマイナス側の振れ幅をそれぞれ独立して設定することができる。設定できる最大の振れ幅は±200mVだ。外部ピンのMAR_CTRLピンをHighにすると出力電圧はプラス側に高くなり,Lowにすると出力電圧は低くなる。Hi-Zにすると公称電圧が出力される。
ISL6540Aのマージニング機能は,出力電圧を設定する帰還ループとは独立している点が特徴だ。つまり,電圧の降下を設定しても,ループ特性や出力電圧精度には影響が及ばない。また,外部のMAR_CTRLピンでマージニング機能を任意にイネーブルできるため,マイクロプロセッサなどと連動させることで,工場出荷時だけではなく装置の電源投入時などのタイミングで電圧マージンをチェックすることもできる。
「最大で40Aの負荷電流に対応したISL6540Aは,低電圧・大電流化が進むプロセッサやFPGAなどのPOL電源に最適です。マージニング機能をはじめとする多くの機能を備えているため,自由度がきわめて高く,高信頼性が要求されるアプリケーションのさまざまなニーズにお応えします」(シン氏)。
オンライン回路シミュレータで電源設計を強力にバックアップ
ISL6540Aをはじめとするインターシルのパワー・デバイスを活用する際に,強力な「助っ人」となってくれるのが,インターシルが新たに提供する「iSim」および「iSim:PE」である(図3)。いずれも無料のツールだ(ユーザー登録のみ必要)。
iSimはウェブ上でサービスされるオンライン回路シミュレータである。インターシルのスイッチング・レギュレータのほかに,絶縁型DC/DCコンバータ,リニア・レギュレータ,MOSFETドライバ,ホットスワップ・コントローラ,シーケンサ,バッテリ・マネージメント,LEDドライバの各パワー・マネージメント・デバイスと,反転型オペアンプと非反転型オペアンプ,トランス・インピーダンス・アンプ,差動アンプ,計装アンプ,ローパスおよびハイパス・フィルタの各オペアンプ回路をサポートしている(一部サポートしていないデバイス品番もある)。
iSim:PEはWindows上で動作するiSimである。iSimで作成した回路図をもとにして,ローカルなパソコン環境でより詳しいシミュレーションが行える。
スイッチング・レギュレータの場合,所望の入力電圧と出力電圧および出力電流を入力して画面上の[Search](検索)をクリックすると,候補となるレギュレータICが表示され,すぐに設計に進むことができる。部品定数やシミュレーション・パラメータなどは画面上で簡単に変更が可能だ。またBOM(部品リスト)や回路図ファイルのダウンロードもできる。
iSim:PEはWindows上で動作するiSimである。iSimで作成した回路図をもとにして,ローカルなパソコン環境でより詳しいシミュレーションが行える。
また,Excelスプレッドシートによる補償ループの設計ツールも提供される(図4)。使用する電源コントローラや回路定数を入力すると,補償回路の推奨値とともに,ゲイン特性および位相特性がグラフで表示される。ポールやゼロの周波数や,マージンが一目で分かるため,設計の追い込みに便利だ。なお本ツールはインターシル製品の採用ユーザーにのみ直接提供される。
またインターシルでは,「R3テクノロジー」の記事で紹介したように,東京オフィス内に「電源ラボ」を開設し,ユーザー・デザインを検証する体制を整えている。こういったツールや開発環境を活用することで,より信頼性の高い,いわゆる「ロバスト」な電源回路を構築できる。「ツールや環境を多面的にご活用いただき,ニーズに最適な電源ソリューションを構築していただきたいと考えています」(シン氏)。
プロセッサなどは半導体の微細化によって低電圧・大電流化が進んでいるため,従来にも増して電源回路の設計が難しくなってきている。インターシルが提供するデバイスや設計環境は,クリティカルなアプリケーションを支える高信頼な電源サブシステムを実現するうえで,装置設計エンジニアにとって心強い味方となってくれるだろう。
※ 会社名,製品名は,各社の商標もしくは登録商標です。
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