インダストリアル分野で広く使われているインタフェース規格「RS-485(TIA/EIA-485)」に,インターシルが新たな価値を吹き込んだ。ミクスド・シグナルのリーディングカンパニーである同社は,独自のトランスミッタ回路の開発によって100Mビット/秒という高速伝送を実現するとともに,IEC61000-4-2というもっとも厳しいESD規格で±15kVというESD耐圧を達成した。ホットプラグ対応機能も備え,過酷な設置環境の中で堅牢性と信頼性が求められるインダストリアル分野で,機器間の高性能なインターコネクトのニーズをサポートする。

加藤 徳幸 氏
加藤 徳幸 氏
インターシル株式会社
リード・フィールド・アプリケーション・エンジニア

 技術の進歩とともに新しいインタフェースが日々開発されている。旧来のインタフェースも依然として健在だ。なかでもインダストリアル分野を中心に信頼性の高いインタフェースとして今も広く採用されているのがRS-485(TIA/EIA-485)だ。

RS-485は2線式の差動バスを基本にしたシリアルバスである。ひとつのバス上にドライバとレシーバを複数配置する「マルチポイント」構成に対応する。データレートはケーブル長などに依存するが,たとえば10メートル以下なら35Mビット/秒程度の高速伝送が可能とされる。データレートを100kビット/秒程度に落とせば,最長で1200メートルの伝送ができる。RS-485は平衡線路で構成されているため,コモンモード電圧範囲であればトランシーバとレシーバのグラウンド電位に差があってもかまわない。これらのほか,信号振幅が比較的大きくノイズに強いといった特徴があるため,工場やプラントに設置されるFA(ファクトリー・オートメーション)機器やPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)機器を結ぶバスとして根強い人気を誇っている。 

インターシルでリード・フィールド・アプリケーション・エンジニアを務める加藤徳幸氏は,「RS-485はいわゆる物理層に相当する電気的特性のみを定めていて,上位のプロトコルは定めていません。そのためさまざまなバス規格に包含されている点も特徴のひとつです」と語る。代表的なところではシングルエンドSCSIがRS-485を採用しているほか,ドイツで開発されたインダストリアル向けのPROFIBUSもRS-485を採用している。また,産業機器メーカーがRS-485上に独自プロトコルを実装している事例も多い。インターシルが提供するRS-485用トランシーバは,このようなインダストリアル・アプリケーションのニーズに応える製品だ。最新のISL3259Eを例に同社ならではの特徴をみていこう(図1)。

図1 100Mビット/秒の高速伝送を可能にするRS-485トランシーバ「ISL3259E」
図1 100Mビット/秒の高速伝送を可能にするRS-485トランシーバ「ISL3259E」

IEC61000規格で±15kVのESD耐圧を達成
ノイズの多い過酷な環境にも設置可能

ISL3259Eの特徴のひとつ目は,ESD(静電破壊)耐圧が高いことだ。静電試験のなかではもっとも厳しいとされるIEC61000-4-2という国際規格で,±15kV(気中放電)および±8kV(接触放電)を達成している。この値はIEC61000-4-2でもっとも上位のレベル4に相当する。また,旧来の試験方法である人体モデル(HBM)の耐圧も±16.5kVと高い。「ISL3259Eは,さまざまなノイズや静電気が飛び交うことの多い工場などの現場でも安心して使っていただけるように,IEC61000-4-2のレベル4を目標に開発しました。外付けの保護回路も必要ありません」(加藤氏)。

保護機能も充実している。レシーバについては,レシーバ入力がオープン,ショート,あるいは終端されている場合,レシーバ出力には「Highレベル」が保証される。ドライバについては,出力電流制限のほか,ショートによってダイ温度が上昇した場合にサーマル・シャットダウンが発生する機構が組み込まれている。 

図2 ISL3259Eで構成した差動バス 図2 ISL3259Eで構成した差動バス(クリックで拡大します)

また,デバイスの電源電圧がおよそ3.2V以下のときは,レシーバ出力,ドライバ出力ともにハイインピーダンス状態が保持される。この機能は活線挿抜(ホットプラグ)を想定したもので,システムが対応しているのであれば,電源を遮断することなく,ISL3259Eを搭載したインタフェース基板をバックプレーンに挿入または抜去することができる。つまり,高可用性を求められるシステムを実現できることになる。

さらにISL3259Eは,レシーバの負荷電流を抑えることで,RS-485バスから見た負荷を実質的に約5分の1にまで下げている。そのため,RS-485の規格上はひとつのバスに接続できるのは32個のトランシーバに制限されているが,ISL3259Eを用いれば最大で160個のトランシーバを接続することが可能だ(図2)。

インダストリ機器の高性能化に対応
データレート100Mビット/秒を実現

ISL3259Eの最大の特徴は,RS-485トランシーバとしては業界トップクラスの100Mビット/秒という高速伝送に対応している点だ。RS-485を物理層として用いながら高速バスを実現することができる。この機能を実際に応用した例の一つとして前述のPROFIBUSが挙げられる。最大データレートは12Mビット/秒である。また,同じくRS-485を物理層に用いるシングルエンドSCSIの場合,Ultra SCSIなら20Mビット/秒,Wide Ultra SCSIなら40Mビット/秒が必要だ。インターシルのISL3259Eなら,これらのインタフェースを容易に構成できるほか,機器ベンダーが独自で開発する高速インタフェースにそのまま適用することが可能だ。  

このような高速なデータレートを実現するにあたって,インターシルがISL3259Eに盛り込んだ技術的ポイントは3つある。ひとつは信号の差動振幅(VOD)をRS-485で規定された電圧よりも高めとなる2.1Vに設定した点だ。このほかに,スルーレートを速めるとともに,出力段の駆動電流を強化した。

図3 100Mビット/秒伝送時の波形(ケーブル長30m,ドライバ端とレシーバ端でそれぞれ120Ω終端)図3 100Mビット/秒伝送時の波形(ケーブル長30m,ドライバ端とレシーバ端でそれぞれ120Ω終端)

伝送メディアとして標準的なCAT-5ケーブルを使用した場合,ポイント・ツー・ポイントであれば,100Mビット/秒でおよそ30メートルの伝送が可能だ。波形の例を図3に示す。実際のデータレートや伝送距離は,使用するケーブル,バストポロジー,終端条件,負荷数など,アプリケーションごとの条件によって変わってくるが,30メートル前後を伝送できるということはさまざまな可能性が考えられる。「100Mビット/秒を実現するテクノロジーとしてはインダストリアルEthernetも存在しますが,ネットワークコントローラやデバイスドライバが必要です。一方,ISL3259Eは単なるトランシーバなので,既存のシステムに適用するだけで高速なインターコネクトが構成できます」(加藤氏)。 

インターシルではISL3259Eのほかに,40Mビット/秒の高データレートに対応したISL3179EやISL3159Eなどをラインアップしている。また,マルチドロップ型のバス構成となるRS-422(TIA/EIA-422)に対応したトランスミッタ単体デバイスおよびレシーバ単体デバイスなども豊富だ。 

RS-485のような古くからの規格は,ややもすると枯れたテクノロジーとしてみなされがちだが,現場ではまだまだ現役である。そして今,インターシルによって新たな息吹が与えられようとしている。


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