パワーデバイスのリーディング・カンパニーであるインターシルは,ノート型パソコンに代表される高性能モバイル機器のニーズに応えるために開発した独自の電源方式技術について明らかにした。負荷変動に対する高速応答と高い電圧精度を両立する「R3テクノロジー」(Robust Ripple Regulator:アール・キューブ)である。米Intel社が自社のモバイルプロセッサ用に規定した電源仕様「IMVP-VI/VI+」(IMVP:Intel Mobile Voltage Positioning)を満たすR3テクノロジーは,すでに多くのノート型パソコンに搭載された実績を持ち,心臓部となるマイクロプロセッサやグラフィックプロセッサの動作を支えている。

青木 啓次 氏
青木 啓次 氏
インターシル株式会社
リード・フィールド・アプリケーション・エンジニア

半導体技術の進化などを背景にモバイル機器の性能向上が目覚しい。その代表がノート型パソコンだろう。かつてはデスクトップ型パソコンのサブセット的な位置づけにあったが,小さくて薄い筐体のなかにきわめて高い処理性能を備えたシステム実現できるようになった今日,ノート型パソコンをメインの環境として使用するユーザーは少なくない。

ノート型パソコンのような高性能なモバイル機器を設計するうえで注意しなければならない技術的なポイントの一つが電源の設計だ。というのもモバイル機器向けプロセッサへの電源供給には大きく三つの課題があるからだ。

一つは,半導体の微細化に伴ってプロセッサの駆動電圧が低下の一途を辿っていること。

もう一つは,消費電流が増加していること。動作周波数が高くなっていることや,1チップに集積するトランジスタ数が増えたことなどから,プロセッサ全体の消費電力は増える傾向にある。ただし,その一方で駆動電圧が下がっていることから,より大きな電流が必要になる。

最後は,消費電流が大きくかつ頻繁に変動するようになっていることだ。最近のプロセッサには,バッテリ動作時間を確保するとともに発熱量を小さくするために,動作モードを細かく切り替えながら消費電力を抑えるシステムが組み込まれていることが多い。こうしたシステムを備えている場合,どうしても動作モードの切り替えとともに,消費電流が変化してしまう。実例を挙げると,「Intel Core 2 Extreme Mobile Processor X9100」の場合で,VCC電圧は動作モードに応じて0.8Vから1.325Vの範囲で供給しなければならない。一方でICCは,59A(Highest Frequencyモード)から12.2A(「Deeper Sleeper」ステート)の範囲で変化する。

図1 ノートパソコンを支えるインターシルのR<sup>3</sup>テクノロジー電源コントローラ
図1 ノートパソコンを支えるインターシルのR3テクノロジー電源コントローラ

このような最先端のモバイル機器向けプロセッサのニーズに応えてインターシルが開発したのが,「R3テクノロジー」である(図1)。応答性,変換効率,リップル低減,そして設計の自由度のすべてにおいて卓越した性能をもたらす方式だ。「R3テクノロジーを採用したモバイル機器向けプロセッサ用電源コントローラは,当社調べでは台湾製ノート型パソコンの70%に採用されているほか,国内の大手ベンダーのノート型パソコンにも搭載されています。電源に対する要件がますます厳しくなっている現在の高性能モバイル機器にとって,R3テクノロジーは不可欠な技術になってきたと言えるのではないでしょうか」(インターシル青木啓次氏)。

負荷変動に合わせてスイッチング周波数を制御

R3テクノロジーの概要を説明しよう。R3テクノロジーは,負荷応答特性に優れたリップル・レギュレータと,リップルが少なく出力電圧精度に優れた電圧モード・レギュレータの長所を組み合わせた方式だ。

図2 R<sup>3</sup>テクノロジーの原理を示すブロック図 図2 R3テクノロジーの原理を示すブロック図

図2はR3テクノロジーのブロック図である。ポイントの一つは,トランスコンダクタ・アンプ(図中の右下)と小容量コンデンサを使って,出力インダクタ(図中の右端)両端のリップル電圧を電源コントローラ内で再構築(エミュレート)している点である。緑色の信号線が再構築したリップル電圧だ。

もう一つのポイントは,出力電圧をエラー・アンプ(左上)で比較した結果(赤色の信号線)に,一定のオフセットを与えるウインドウ電圧(青色の信号線)を加えている点だ。先ほどの再構築したリップル電圧は,エラー・アンプ出力,およびウインドウ電圧を加えたエラー・アンプ出力とそれぞれコンパレータで比較され,PWMパルスが生成される。

図3 R<sup>3</sup>テクノロジーの動作波形	図3 R3テクノロジーの動作波形

波形は図3のようになる。負荷が軽い状態(左半分)から重い状態(右半分)に変化したと仮定する。変動の瞬間,出力電圧(赤色の波形)はわずかに低下するためエラー・アンプ出力(黄緑色の波形)は上昇し,同時にウインドウ(紫色の波形)も一定のオフセットを保ちながら並行に上昇する。内部で再構築されたリップル電圧(緑色の波形)は,このふたつの波形が包絡線となるような形で上昇する。「包絡線の傾きが急な領域では,生成されるPWMパルス(青色の波形)の周波数が見かけ上高くなり,低下した出力電圧を高速に補います。この仕組みがR3テクノロジーのキーポイントです」(青木氏)。

つまり,スイッチング周波数が決まっている一般的なPWMでは,次のスイッチング周期が来るまでFETをオンにすることができないが,R3テクノロジーはスイッチング周波数を負荷状況に応じて自動的に変化させることで,高速な応答を実現しているのである。

幅広い電源コントローラ製品にR3を搭載

R3テクノロジーを採用した同社の電源コントローラ製品をいくつか紹介しよう。

「Intel Core Duo Processor」に対応した電源コントローラとして用意しているのが「ISL6262/ISL6262A/ISL6266A」である。ISL6262 は「IMVP-VI(Intel Mobile Voltage Positioning)」に準拠し「Napa」プラットフォームをサポート。ISL6262A/ISL6266Aは「IMVP-VI+」に準拠し,「Santa Rosa」,「Monte Vina」プラットフォームをサポートする。いずれも7ビットVIDで出力電圧を設定でき,電圧範囲は12.5mVステップで0.300V〜1.500V である。

IMVP-VI+に対応したSanta Rosaプラットフォーム用のGPU電源として「ISL6263/ISL6263A」を提供している。いずれも5ビットVIDをサポートする。

「AMD Turion」プロセッサ向け電源コントローラとして「ISL6264/6265A」も用意している。

図4 R4テクノロジーを採用した「ISL95210」のブロック図と動作波形 図4 R4テクノロジーを採用した「ISL95210」のブロック図と動作波形 (クリックで拡大します)

汎用の電源レギュレータでは「ISL6269A」と「ISL62870/ISL62871/ISL62872」が,R3テクノロジーを採用している。例えば,これらはDDRメモリ用など周辺回路の電源に向いている。MOSFETドライバやブートストラップダイオードを内蔵しているため,回路の小型化に寄与する。出力電圧範囲は0.6V〜3.3Vである。ISL6228はデュアルチャネルの汎用電源レギュレータで,MOSFETドライバを内蔵しており,出力電圧範囲は0.6V〜5.0Vである。

以上は主にノート型パソコン向けのR3テクノロジー搭載製品である。このほかにもFPGAや産業コントローラ向けの汎用電源コントローラの多くにも同テクノロジーが搭載されている。

さらにインターシルでは,R3テクノロジーをさらに発展させた「R4テクノロジー」(Rapid R3)を開発中だ。R3テクノロジーでは高ゲインのエラー・アンプと補償回路が必要だが,R4テクノロジーでは,エラー・アンプのゲインを下げるとともに補償回路を省略して回路安定度を高めながら,積分器を省略してさらに高速な応答を実現している。同社では,R4テクノロジーを採用した「ISL95210」を2009年度中に発売する予定である(図4)。10A出力のMOSFETを内蔵した製品だ。

設計を支援する「電源ラボ」を設置

図4 インターシル東京オフィスの電源ラボ図5 インターシル東京オフィスの電源ラボ

こうした優れた特性を備えた電源コントローラの特性が揃っていても,部品選択や実装方法が適当でないと,狙った通りの性能が備えた電源が実現できないおそれがある。そこでインターシルでは,電源コントローラのデータシートのほかに,リファレンス回路,評価ボード,あるいは補償ネットワークの計算ツールを提供するなど,ユーザーの設計支援に力を入れている。なかでも注目すべきは東京オフィスに「電源ラボ」を設置していることだ(図5)。同ラボには,同社の電源コントローラを使ったユーザー・デザインを検証する体制を整えており,ノート型パソコンなどのモバイル機器に限らず,あらゆる電源システムの特性評価を実施できる環境を整え,ユーザーに開放している。「電源に関する評価が速かに実施できる設備を揃えた当社の電源ラボは,設計期間の短縮にも貢献するでしょう。すでに多くのお客様に活用していただいています。電源ラボの利用をキッカケに,同じ測定環境を自社に揃えたというお客様もいらっしゃいました」(青木氏)。

R3テクノロジーを積極的に展開し,高いパフォーマンスを発揮する製品を数多く用意するとともに,強力なユーザー支援体制を整えている同社は,低電圧かつ大電流のトレンドを突き進むモバイル機器向け電源の設計者にとって強力な味方といえよう。


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