電源回路の設計はデジタル回路のエンジニアにとってなかなか厄介である。適切な部品定数の選択,十分な位相マージンを確保した帰還ネットワークの設計,安定した基板実装など,アナログ的な視点で対処しなければならない課題がたくさんあるからだ。より簡単に電源を構成したいというエンジニアのニーズに応えるのが,インターシルが開発したマイクロ電源モジュールである。15mm2の小型パッケージに最小限の外付け部品を追加するだけで,10A以上の出力電流が得られる回路を構成することができる。

ダーナンジャイ・クマール・シン氏
インターシル
シニア・フィールド・アプリケーション・エンジニア
半導体の微細化を背景に,デジタル回路は低電圧化の一途を辿っている。かつては+5Vや+3.3Vがデジタル回路の標準的な電源電圧だったが,現在では+1.8Vや+1.05Vといった低い電圧で動作する半導体デバイスも多い。
その場合に課題になるのが電源の供給だ。というのも,同じ電力を供給しようとした場合,電圧が低くなればその分大きな電流が必要になるからだ。もちろん微細化によって半導体デバイスの消費電力は一般に減少傾向にあるが,きわめて高い処理性能を求められるサーバーやネットワーク機器などは,依然として大きな電力を必要とする。
しかし,低電圧で大電力を供給するには大きな電流を流さなければならず,このとき電源経路の途中で無視できないほどの電圧降下が発生してしまう恐れがある。そのうえ損失や電圧変動が増加,過渡的な電流変動に速やかに応答することが難しくなる。
このような課題を解決するのが,システム全体には高めのDC電圧を供給しておき,それぞれの回路の近傍にDC/DCコンバータを配置する「POL」(ポイント・オブ・ロード)という電源アーキテクチャだ。日本語では「負荷点電源」や「分散電源」とも呼ばれる。POLには,電源負荷となる回路の近傍に電源回路を配置するため,電圧降下による損失を抑えられるほか,応答性を高めやすいといったメリットがある。
一方,POLのデメリットとしては,システム全体で見たときに電源部品が増えてしまうという点が挙げられるだろう。「ディスクリート部品を使用してDC/DCコンバータ回路を構成するとおよそ40個の部品が必要になります。また,電源に精通したエンジニアがいない場合,補償ネットワークを含む電源回路の設計はエンジニアの大きな負担になっていました」(インターシルでシニア・フィールド・アプリケーション・エンジニアを務めるダーナンジャイ・クマール・シン氏)。

図1. マイクロ電源モジュールのリードフレームとパッケージ
40個あまりの部品を高さ
2.2mmの単一パッケージに搭載
以上述べたようなPOL電源アーキテクチャのメリットを引き出すとともに,デメリットを解決するのが,スイッチング電源コントローラやMOSFETなどを単一パッケージに集積したインターシルのマイクロ電源モジュール「ISL8200Mファミリ」だ。同社はミクスドシグナルおよびパワーデバイスのリーディングカンパニーで,デジタル機器を支える電源コントローラや電源モジュールに多くの実績を持っている。
今回開発したISL8200Mファミリには,同社がこれまで蓄積してきたノウハウを集約するとともに,ユーザーからのさまざまな要望も盛り込んだ。いくつかの特徴をみていこう。
同ファミリの特徴のひとつが集積度の高さだ。わずか15mm×15mmという小型パッケージに,DC/DCコンバータ,ローサイドおよびハイサイドのMOSFET,補償回路などを搭載している。外付け部品は,もっとも単純に構成した場合で,入力コンデンサと出力コンデンサ,および出力電圧を設定する帰還抵抗の計3個だけで済む。
QFN(Quad Flat Non-leaded)パッケージを採用している点もポイントだ。一般的なマイクロ電源モジュールLSIで採用されているLGA(Land Grid Array)パッケージの場合,すべてのパッドがパッケージ下面に配置されているため,リフローの合否を判定するにはX線検査装置を使って検査しなければならない。一方でQFNはパッケージ外周にピンが見えるため,目視でハンダ不良をチェックできる上,制御信号の引出しも容易だ。また,面積の広いパッドを採用することにより放熱に優れたパッケージでもある。
小型化だけではなく薄型化を求める市場ニーズにも応えた。標準的な機能を搭載したISL8201Mの高さは3.5mm。また,電流シェアなどの豊富な機能を持つISL8200Mは,専用のインダクタを採用することで,クラス最薄(同社調べ)となる高さ2.3mmを実現している。なお,内部チップの熱はQFNのリードフレーム(カッパー)を経由して基板へと拡散されるため,外付けヒートシンクを必要としない点もQFNのメリットに挙げられる。
プログラマブルな機能で幅広い用途に対応
次の製品それぞれの仕様をみていこう。
ISL8201Mは標準的な機能を搭載したマイクロ電源モジュールだ。回路アーキテクチャは降圧型(バック型)である。入力電圧範囲は+4.5Vから+14.4V(回路構成により+20.0Vまで可能),出力電圧範囲は+0.6Vから+5.0V±1%だ。最大出力電流は10Aと大きい。入力電圧や出力電圧/出力電流の条件にもよるが,最高で95%の効率を実現する。スイッチング周波数は600kHz固定だ。
保護機能としてはローサイドMOSFET側の電流をセンスする過電流保護(OCP)を搭載している。非ラッチ型で,過電流状態が解消された時点で自動的に通常動作に復帰する。電源シーケンスを制御できるようにイネーブルピンも備えた。
2009年秋にサンプル出荷が予定されているISL8200Mは,並列動作にも対応した高機能版のマイクロ電源モジュールだ。「今現在,使われている機能はほとんど実装済です」(シン氏)という同社の自信作である。
回路アーキテクチャはISL8201Mと同じく降圧型(バック型)である。入力電圧範囲は+4.5Vから+20.0V,出力電圧範囲は+0.6Vから+5.0Vとなっている。全温度範囲での出力電圧精度は±0.6%と高い。最大出力電流は10Aである。また,スイッチング周波数はシステム要件に合わせて800kHzから1.5MHzの範囲で自由に設定できる。
注目すべき特徴は並列動作に対応した機能だ。複数のISL8200Mを並列に配置することで10Aを超える出力電流を得ることができる。たとえば2個並列にすれば最大で20A,3個並列にすれば30Aが得られる。専用のISHAREピンを接続することで電流シェアリング制御が自動的に行われ,それぞれのISL8200Mの出力バランスが維持される。
大電流を扱う場合に問題になるのが,スイッチング周波数で脈動する入力電流リップルである。とくに複数のコントローラを並列で動作させた場合はリップル電流が単純に倍化されてしまう。ISL8200Mはこのような問題に対処するため,スイッチングの位相を30°単位で設定できるようにした。位相をずらすことで入力電流リップルは平準化されて小さくなるというメリットも得られる。また,外部クロックへの同期も可能だ。さらに複数のモジュールを同期することが出来るので,スイッチング周波数のビート(うねり)の発生も抑止できる。
保護機能としては,過電流(OCP),オーバーボルテージ(OVP)およびアンダーボルテージ(UVP),および加熱保護(OTP)を備える。
シンプルな使い勝手と高い自由度を両立
ISL8201シリーズは補償回路を内蔵しているため,基本的にはそのまま使用してもなんら問題はないが,応答特性や周波数マージンなどをアプリケーションの要件に合わせて変更したいという一部のユーザー向けに,特性をチューニングできる仕組みを備えている。補償特性を変更するには,外部ピンとして割り当てられた補償制御に関連するCOMP信号およびFB信号に,コンデンサと抵抗で構成する補償ネットワークを外付けすればよい。なおQFNパッケージを採用しているため,外部ピンへのアクセスとルーティングは容易だ。
なお,外部補償ネットワークの設計を予定しているユーザーには,Microsoft Excelで動作する簡単な計算ツールが同社から提供される。外付けネットワークの定数を入力すると,位相特性などがグラフ化されてひとめで分かるという便利なツールだ。
以上のように,マイクロモジュール化によって小型化と薄型化を図りながら,補償特性のチューニングにも対応するなど高い自由度を実現した点が,同社のマイクロ電源モジュールの特徴である。
「インターシルは米国CPUメーカー向けに電流ソリューションを古くから提供しており,大電流制御に多くのノウハウを持っています。そのような経験を反映した当社のマイクロ電源モジュールは,電源系の設計工数をできるだけ抑えたいというお客様のニーズにお応えするものです。装置や基板の小型化や薄型化にも貢献できると考えています」(シン氏)。
同社は,今回紹介したISL8201MやISL8200Mのほかに,さらなる大電流化を図ったマイクロ電源モジュールやデジタル電源コントローラを採用したマイクロ電源モジュールの開発も検討しているという。幅広い分野のユーザーニーズを捉えて開発された同社のマイクロ電源モジュールは,大電流を必要とするサーバーやテレコム機器,産業機器,組込み機器などに最適といえるだろう。
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