アナログ信号は歪みや減衰の影響を受けやすく,長い距離にわたって信号を伝送するのは通常は困難だ。そのため,アナログ出力のセンサなどを利用する場合はデジタルにいったん変換しなければならず,回路コストの上昇やシステムの複雑化を招いていた。このような課題に対して,ミクストシグナルおよびパワーデバイスのリーディングカンパニーであるインターシルは,安価なカテゴリー5のツイストペア・ケーブルを使ってアナログ信号を数百メートルも伝送するユニークなソリューションを展開している。センサ・ネットワークなど幅広い応用が見込まれる。

相子 和也氏
インターシル
ビジネス・デベロップメント・マネージャー
最近では多種多様なセンサが開発され,離れたところの状態を容易に監視できるようになってきた。温度センサや湿度センサを使った環境監視,圧力センサや傾きセンサを使った機器やプラントなどの状態監視,煙センサやガス・センサを使った火災探知,人感センサや監視カメラを使ったセキュリティ監視などが代表的な応用分野として挙げられる。
こういったセンサ・ネットワークの構築では回路的にいくつかの課題がある。もっとも大きな課題は,センサが出力する微小なアナログ信号を,どのように監視システム(たとえば監視センター内のデータ収集機器)へと伝えるか,という点だろう。最近ではデジタル出力のセンサも増えているが,アナログ出力のセンサも依然として多いほか,監視カメラは一般にアナログのコンポジット信号を出力する。アナログの伝送が課題となることはデジタル化が進んだ現在も変わらない。
ひとつの方法として,センサ出力をデジタルに変換し,さらに長距離伝送が可能な信号(たとえば小振幅の差動信号)に変換して,ケーブルを伝送するというやり方がある。そのほか,ネットワーク・コントローラをセンサ側に配置してEthernet上に流す方法や,免許を必要としないWiFiなどのISM帯(2.4GHz帯)を使ってワイヤレスで送る方法もある。
いずれの方法もセンサ側にA-Dコンバータやネットワーク・コントローラなどのデバイスを必要とする。また,アナログの監視カメラを使った場合は,いったんデジタル化したコンポジット信号を受信側でアナログ信号に再変換しなければならず,コストを押し上げてしまう。
「デジタル化が進んだことでアナログ信号をデジタルへと安直に変換しがちですが,アプリケーションによってはアナログ信号のまま長距離を伝送させたほうが望ましい場合も少なくありません」とインターシルでビジネス・デベロップメント・マネージャーを務める相子和也氏は説明する。
カテゴリー5ケーブルの減衰特性を補償する
複数ポールのイコライザで忠実な伝送を実現
アナログ信号の長距離伝送が可能なEL4543アナログ信号の長距離伝送を実現するユニークなソリューションをラインアップしているのが,ミクストシグナルおよびパワーデバイスのリーディング・カンパニーであるインターシルだ。同社が提供するさまざまなアナログ・デバイスのなかで,「EL9111/EL9115」「EL51XX/EL53XX」「EL4543」などのファミリがこのような目的に適合する。もともとはパソコンのモニタ出力の延長を目的に開発されたソリューションである。
このソリューションの特徴のひとつは,ツイストペア・ケーブルを使ってアナログ信号を長距離伝送できる点だ。使用するデバイスや信号帯域にもよるが,最長で数百メートルから1000メートル程度の駆動が可能だ。ツイストペア・ケーブルは同軸ケーブルに比べて安価であり,とくにケーブル長が長くなるシステムでは有利になる。「たとえば監視カメラ・システムに当社のソリューションを追加して部品コストが多少上がったとしても,同軸ケーブルをツイストペア・ケーブルで代用できるため,はるかに大きなコスト・メリットが得られます」(相子氏)。
ソリューションの組み合わせのひとつがドライバEL4543とレシーバEL9111である。EL4543は差動出力のツイストペア・ドライバだ。帯域は350MHzと広い。ビデオ・アプリケーション用に垂直/水平同期信号のデコード機能も備えている。EL9111はイコライザを内蔵した差動レシーバだ。帯域は150MHzである。カテゴリー5のツイストケーブル特性に対応した5ポールのイコライザ回路を内蔵している。補償量はプログラマブルなのでシステムの特性やメディアに合わせて調整できる。通常,50MHzの信号であれば300メートル,125MHzの信号なら150メートルの伝送が可能だ。
EL4543とEL9111はもともとはビデオ信号(VGA)の延長を目的として設計されていると書いたが,ビデオ信号はわずかな歪みがあっても目視で画質低下として認識されてしまう。逆に言えば,伝送後のビデオ信号の画質に著しい低下がないということは,アナログ信号を忠実に伝送できていることを意味する。事実,EL9111が内蔵するカテゴリー5の減衰特性に合わせた多ポールの補償回路の効果により,たとえばVGA信号を300メートルにわたって伝送した場合でも,画質の低下はほとんど認められない(図1)。
つまり精度が8ビット程度(256段階)程度なら,センサのアナログ出力をそのままツイストペア・ケーブルに乗せて伝送できることを意味している。「一般的な状態監視なら8ビットでもオーバースペックです。高分解能あるいは高精度が求められる一部のシステムは別としても,通常のセンサ・ネットワークには十分といえます」(相子氏)。
同社では,上記で紹介したソリューションのほかに,差動ドライバEL5170や差動ラインレシーバEL5172,最大62ナノ秒の範囲でアナログ信号のスキューを調整できるディレイ・ラインEL9115,監視カメラを使ったアプリケーション向けに16×16のクロスポイント・スイッチEL3233/EL3235や32×32のクロスポイント・スイッチEL3232/EL3234などを用意している。伝送するアナログ信号の帯域やコスト要件に応じた部品選定が可能だ。
「デジタル信号を高速に伝送するソリューションは当社を含め他社からもいろいろと出ていますが,アナログ信号をアナログのまま伝送できるソリューションは,デジタル時代のいま,逆に珍しいといえるでしょう。ここで説明したセンサや監視カメラなどのアプリケーションのほか,お客様の柔軟な発想によって,さまざまな応用に発展することを期待しています」(相子氏)。
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