電源ICの中にデジタル回路を組み込んで制御する「デジタル電源」がようやく市場で認知されるようになってきた。ちょうどFPGAを書き換えるようなイメージで特性パラメータを設定できるため,ひとつの回路を複数のソリューションに展開できるといった広い可能性を秘めているのがデジタル電源だ。ミックスドシグナルおよびパワー・デバイスのリーディング・カンパニーであるインターシルは,デジタル電源の専業ベンダー米Zilker Labs社を傘下に収め,付加価値の高い電源デバイスの提供を進めている。

ダーナンジャイ・クマール・シン氏
インターシル
シニア・フィールド・アプリケーション・エンジニア
エンジニアにとって電源周りの設計は頭の痛い問題のひとつである。機器の小型化が進み電源回路に許される実装面積の制約が厳しくなる一方で,消費電力や発熱を抑えるために高効率も要求される。また,半導体プロセスの微細化によって1.0V程度の低電圧も必要となるなど,複数の電源レールを供給しなければならないのが現状だ。
このようなさまざまな要求に対応できると,かねて注目されてきた電源が,「デジタル電源」である。アナログのスイッチング電源理論を基本としながら,誤差アンプなどで構成する帰還回路をA-DコンバータやDSPで構成し,デジタル的に制御することからこの名前が付けられている。
ミックスドシグナルおよびパワー・デバイスのリーディング・カンパニーであるインターシルは,以前から自社でもデジタル電源製品を展開してきたが,2003年創業のデジタル電源の専業メーカーZilker Labs, Inc.(米国テキサス州オースティン)を 2008年12月に吸収し,デジタル電源ソリューションの強化を図っている。 「インターシルは常に付加価値の高いデバイスの提供に努めています。Zilker Labsの電源コントローラは,ユーザーが特性、パラメータを自由にプログラミングできるという特長を備えていて,まさに当社の方針に合った製品なのです」と,ダーナンジャイ・クマール・シン氏はZilker Labsを傘下に収めた背景を説明する。
ひとつのプラットフォームを複数に展開できる
デジタル制御ならではの設計の自由度が特徴
Zilker Labsのデジタル電源コントローラは「Digital-DC」と呼ばれ,次のような特徴をもつ。
ひとつは変換効率の高さだ。たとえば,MOSFETの損失を最小限に抑えるデッドタイム(ハイサイドとローサイドが同時にオフになる時間)を動作条件に合わせて制御できる。また。負荷が軽い時に効果を発揮するダイオード・エミュレーションも同様に制御できる。そのほか,負荷の軽い時からフル負荷の時まで広い範囲で,90%前後の高い変換効率を得ることができるのだ(図1)。
自由度の高さもDigital-DC製品の特徴だ。出力電圧,スイッチング周波数,外部同期,ソフトスタートやランプ特性,電圧トラッキング,フォールト条件などをI2C/SMBusまたはPMBusを通じて設定できる。通常のアナログ・スイッチング電源の場合,ほとんどの特性はコントローラごとに決まっていて変更はできないが,Digital-DC電源は設計者がシステムの条件に合わせて細かくパラメータを定めることで,回路の最適化を図ることができる点が魅力だ。
3点目としては使い易さが挙げられる。補償回路を含むほとんどの周辺回路を集積化しているため,最小限の外付け部品で電源回路を構成することができる。また,さまざまな動作特性をデジタル的に設定できるため,ひとつの基板回路を複数の製品へと展開することも可能だ。設計の共通化は部品調達や在庫管理の面でもメリットがある。
設計工数まで含めたトータルのコストを抑えられる点もDigital-DC製品の強みだろう。電源コントローラ単体で比べた場合は,現状では一般のアナログ・スイッチング電源コントローラに比べてDigital-DCコントローラのほうが価格は高い。ただし,外付け部品が少ないことや実装面積を小型化できることを考慮すると,回路全体で見たトータル・コストは同等程度になると考えられる。また,回路の設計期間が短くてすむため,最終的には開発コストの低減に寄与する。「アナログの電源コントローラのように,抵抗やコンデンサなどの素子定数を細かく基板上で変更しながら最適化を図る必要がありません。十分な設計マージンを持った電源回路を短期間でパソコン上で実現することができる点がメリットです」(シン氏)。
高機能コントローラからMOSFET内蔵型まで
ユーザー・ニーズを満たす豊富なラインアップ
ここで付加価値の高い電源コントローラ「Ditial-DC」2点を紹介しよう。
「ZL2006」は降圧(バック)型の汎用的なデジタル電源コントローラである(図2)。3V〜14Vを入力電圧範囲とし,出力電圧は低電圧化にも対応して0.54V〜5.5Vと広い。最大3AのMOSFETドライバを内蔵しているため,適切なMOSFETを選択すれば,40A以上の出力を得ることも可能だ。自由度の高いデジタル制御によって,代表的な回路構成の場合,3.3V出力で最高93%の効率を達成する。
ZL2006の特長のひとつが設計自由度の高さだ。たとえば出力電圧は,ピン・ストラップによる設定,外付け抵抗による設定,I2C /SMBusによる設定が可能だ。また,POLA(Point Of Load Alliance)またはDOSA(Distributed-power Open Standard Alliance)で規定された外付け抵抗値での設定方法にも対応する。スタートアップ時の挙動やスイッチング周波数なども外付け抵抗またはI2C/SMBusによって設定できる。
入力電圧,出力電圧,出力電流(平均とピーク),温度といった動作中のパラメータをモニタできる「snapshot」機能も備えているため,スーパーバイザと一般に呼ばれる電源監視ICを必要としない。複数のZL2006を接続して電流シェアリング操作も行える。
「ZL2105」はMOSFETを内蔵した降圧型のワンチップ・デジタル電源コントローラだ(図3)。出力電流は最大3Aである。回路サイズが小さいため,ポイント・オブ・ロード電源としても最適だ。入力電圧範囲は4.5V〜14V,出力電圧範囲は0.54V〜5.5Vである。出力電圧や各種の機能は,ZL2006と同じように,ピン・ストラップによる設定,外付け抵抗による設定,I2C /SMBusまたはPMBusによる設定が可能だ。パッケージは6mm×6mmである。ほかに,MOSFETを内蔵した6A出力の「ZL2106A」も提供する。
アナログ電源からの移行を促す
グラフィカルな開発環境を用意
プログラミングが可能なデジタル電源の設計手順や方法は,従来のアナログ電源とはかなり異なる。しかも設計自由度が高いため,細かい仕様まで設計者がひとつひとつ決めていかなければならない場合も多い。「従来の設計環境と異なるため,初めは,デジタル電源を難しいと感じてしまう人も少なくありません」(シン氏)。
そこでインターシルでは,電源設計者の負担を少しでも減らそうと,以下のような設計開発ツールのほかに,アプリケーション・ノート,評価キット,リファレンス回路などを提供している。Digital-DC電源の設計ワークショップの開催も検討中である。
「PowerNavigator」(図4)はZilker Labのデバイスに最適化された設計ツールだ。さまざまなパラメータをグラフィカルなインタフェースを通じて設定できる。ZL2006のようなsnapshot機能を持ったコントローラであれば,入力電圧や出力電圧などがPowerNavigatorのウィンドウにリアルタイムに表示される。なお,ホストパソコンのUSBとDigital-DCコントローラのSMBus/PMBusとをつなぐインタフェースは評価キットに同梱される。
帰還ループのPID補償部分の設計には「CompZL Simualtion Tool」を使用する。スイッチング周波数,インダクタ値,MOSFETパラメータ,出力コンデンサなどを入力すると,CompZLが,ゲインマージン,位相マージン,クロスオーバー周波数の最適値などを計算する。
このようなツールを用いて設計したパラメータを量産製品に組み込むにはふたつの方法がある。ひとつはインターシルに各パラメータを提示し,インターシル側でプログラミングし,専用の型番を付与したカスタム品として購入する方法である。ユーザーは生産ラインでパラメータをプログラミングする必要はない。
もうひとつは量産ライン用のプログラミング装置(たとえば丸紅情報システムズが取り扱う米BPM Microsystem社の自動搬送型プログラマ)を用いて,ユーザー自身がパラメータを書き込む方法だ。工程は増えるものの設計変更などにも速やかに対応することができる。在庫すべきコントローラも一種類で済む。
「デジタル電源はようやく活用が始まった段階です。アナログ電源とは異なる設計手法を習得しなければなりませんが,ひとつの回路を複数の用途に展開できるといったメリットを上手に引き出して,お客様のシステムでぜひ活用していただきたいと思います」(シン氏)。
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