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第8回LSI IPデザイン・アワード「IP優秀賞」受賞者インタビュー 次世代車載ネットワーク対応技術で,日本発の国際標準を目指す [2006/06/22] 企業部門のIP優秀賞を受賞したのはヴィッツ,サニー技研,名古屋大学情報科学研究科の「オープン・ソースFlexRay通信:Time Triggered OSとFlexRay通信ミドルウェア」だった。受賞した研究開発は,次世代の車載ネットワーク規格において最も有力とされているFlexRay通信用のミドルウェアとOSの機能拡張である。特に開発のタイムリさとオープン・ソースとして公開し国際標準を目指すという意欲の高さが高い評価を受けた。発表者のヴィッツ開発第3部部長の服部博行氏が受賞の喜びと開発秘話を語った。 研究チームの牽引役の1人,服部氏は工学系出身ではなかった
発表会での語り口と同様に,インタビューに対しても明快に分かりやすく答える服部氏からは,強い自信がうかがえる。それは1997年6月に社員4人で設立したヴィッツとともにあらゆる苦労を乗り越えて歩んできた服部氏自らが培ってきたもののようだ。 「私は,実は農学部出身で,工学部の出身ではないんです。正直言ってコンピュータ音痴で,最初は研究のため必要に迫られてコンピュータ を使い始めたような状況でした。しかし,次第に興味を覚えて,ソフトウェアとは何かを知ろうと思って,派遣のプログラマとして工作機メーカーで勤めた位です。そこで出会ったメンバーと立ち上げたのがヴィッツです」(服部氏)。 驚くべきことに,審査員も絶賛したこの研究の代表者の1人である服部氏は,工学系の人間ではなかったのだ。服部氏の,チャレンジングな人生はヴィッツとともに始まった。 世界との競争に勝つための日本発国際標準への夢 「1999年ごろから,私は組み込み用のシステムやソフトウェアの開発を担当することになり,そこで名古屋大学の高田広章先生とお知り合いになることができました。と言っても,トロン協会主催の『TRONオープンセミナー』で協会が仕様を策定した組み込み向けTCP/IP仕様に関する高田先生の発表を聞いて,どうしても先生の教えを請いたいと思いました。ほとんど先生の“追っかけ”のように付きまとわせていただきました。そうした中で,私の中に組み込みのイメージが構築されていったのです」(服部氏)。 服部氏の転機は2002〜2003年の経済産業省東北地区地域新生コンソーシアムに参加したことで訪れた。これを機に組み込みオープン・ソース・プロダクトに目を向けた。丁度そのころから,高田研究室でトヨタ自動車との共同研究がスタートした。また,ヴィッツと名古屋大学でTOPPERS/OSEKカーネルを開発したことから,自動車系の魅力あるソフトウェア,ひいては日本発国際標準を作りたいとの野望が目覚めた。 「良い通信ミドルウェアを日本で開発しても,グローバル競争ではいつも標準化という問題で負けてしまうのが現状です。どうしても日本発の国際標準を作らなくてはダメだということで,皆で議論を重ねていました。本来,国際標準の正攻法は,仕様を策定し,それを英語ドキュメント化して標準化委員会で日本の意見を発言する必要があります。ところが,日本はそれが苦手です。だから,いつも標準化仕様では欧州にやられています。日本が得意なのは,ものづくりです。動くもの,直ぐに利用できるものを作って提案すれば,標準化に取り入れられやすいのではないか。そのためには,動く物を作ることは当然のことです。しかも,国内での同意形成が必要です。国内で同意を得るには,メーカー色のないオープン・ソースが有効であると考えました。オープン・ソースにすれば,スムーズに受け入れられるのではないかと考え,これを皆で検討していったのです」(服部氏)。 次世代の車両開発で問題になっているのは,次の通信をどう実現するかであり,その最有力が FlexRay通信である。これを実現するための検討をするうえで,欧州からの提案仕様では,日本の自動車開発は難しい。そこで,欧州とは違ったアプローチが必要であると考えていた。 一方,服部氏らの手元には,非常に苦労を重ねて開発したOSEK仕様に準拠したリアルタイムOSがあった。次世代の通信であるFlexRay通信を実現するには,このOSをベースとして新しい日本のものづくりを反映した基盤ソフトウェアを開発してはどうかという検討を重ねた。 「かつてITRONで苦い思いをした日本は,同じ道を歩んだらまた負けてしまう。そういう思いで,2005年4月に開発に着手し,同年8月に動くようになり,同年10月に発表しました。その後,JasParやAUTOSARに標準として提案しました。標準化活動の一環としてドイツで開かれたFlexRay Product Days 2005 呼ばれるFlexRay関係の展示会 にby-wireのデモをルネサス テクノロジの好意で持って行きました」(服部氏)。 24時間不眠の開発を物語るメーリング・リスト いかにもとんとん拍子で進んだかに見える開発物語ではあるが,服部氏の「苦労がなかった」という発言を真に受けてはいけない。 「確かに苦労はしました。何しろ第一にFlexRay評価ボードがない。それにFlexRayの知識もない。プロセサやネットワーク・コントローラなどボードはルネサス テクノロジのご好意で提供していただきました。また自動車の通信系に強いサニー技研にも開発に加わっていただきました。仕様を決定するのに時間がかかるなど,社内的な難しさはありましたが,タイム・トリガー・モジュールはさほど大きくなく,OSEK OSを開発した時よりも作るべき仕様の理解は容易でした。やはり1年半前にゼロから開発して作ったOSEK OSのときの方が,はるかに辛かったというのが正直な印象です」(服部氏)。 OSEK OSを開発したときは,開発チームが議論や報告をするためにメーリング・リストを活用していた。このメーリング・リストを見てみると,当時はほとんど24時間稼動していたと服部氏は言う。 「夜というか明け方の3〜5時に,今日は自分が最後かなと思いながら,最後の書き込みをして眠りにつくのですが,翌朝メーリング・リストを確認するとそのすぐ後に高田先生からコメントが残っていたりするなんてことが何度もありました。いったい,皆いつ寝ているのだろうという状態でしたからね。でもこの時の苦労のおかげで,組織のスキルも上がり,モチベーションも高くなりました。今回は,その苦労が実り,少なくとも欧州の仕様を理解することが必要ないため,開発もスムーズでした。もちろん,今回もメーリング・リストは活用しましたが,少なくとも不眠状態にはなりませんでした」(服部氏)。 オープン・ソースでもビジネスにはなる こうして開発した「TimeTriggered OS(TT-OS)とFlexRay通信ミドルウェア」は,オープン・ソースとして公開される。それだけ苦労した結果を,収益ではなく理想に投資して構わないのだろうかと聞くと,服部氏はこう答えた。 「オープン・ソースはもうからないと言われていますが,もうかるようにビジネスにつなげていきたいし,そうするつもりです。たとえば導入時のカスタマイズやその後のサポートで,もうかりませんが研究費を回収できると確信しています。でも何よりも今は,日本の提案を国際標準にし,世界に日本の存在意義をアピールしたい。そのための支援を皆様からいただきたいと思っています。こうして表彰していただいて,多くの方に知っていただくことで,その夢につながると思うと感謝で一杯です。受賞者への通達は毎年3月にあると聞いていたので,5月に知らせを聞いて,みんな驚いていました。若いスタッフなどは大喜びでした。本当にありがとうございました」と力強く話を締めくくった。 Time Triggered OSの構成 ![]() |
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