
リビング・ルームの中央に鎮座するテレビをブロードバンドに接続することで,テレビ放送やパッケージ媒体の視聴以外の用途にも広げようとする動きが今回のCEATECでも鮮明になった。その象徴となったのが,開催前日にテレビ向けポータル・サービス「acTVila(アクトビラ)」を2007年2月に開始することを発表したテレビポータルサービス(以下,TVPS)である(図5)。
TVPSは,シャープ,ソニー,東芝,日立製作所,松下電器産業が2006年2月に結成した「DTVポータル検討ワーキンググループ(DTP-WG)」での検討を経て,この5社らの共同出資で2006年7月に設立された。CEATECで行われた「デジタルホーム実証実験」の成果を基にacTVilaを運営していく。第1弾として静止画と文字による生活関連情報サービスを開始し,2007年度中にストリーミング型VOD(video on demand)サービス,2008年度中に蓄積型VODサービスを開始する予定である。デジタルホーム実証実験では,ストリーミング型VODサービスや,生活情報サービスの実演を見せた。
TVPSはacTVila対応のテレビやサービスを開発するためのガイドラインとして,既存の標準仕様を参照する。WWWブラウザーやテレビの仕様には,デジタルテレビ情報化研究会が定めた「ネットTV端末仕様書2.0版」を採用し,映像のストリーミング再生の仕様には「ネットTV端末ストリーミングコーデック仕様」および「同プロトコル仕様」を採用する考えである注1)。映像配信サービスのDRM技術としては,米Marlin Developer Communityの「Marlin DRM」を採用する注2)。
これまでテレビ・メーカーの多くは,ネットTV端末仕様書1.0版に準拠するWWWブラウザーを搭載し,それぞれが情報提供のためのインターネット・サービスを運営してきた。松下電器産業の「Tナビ」やソネットエンタテインメントの「TVホーム」などである。しかし「対応テレビの購入者のうちインターネット・サービスの利用者はおおむね10〜15%」(TVPS 代表取締役社長の大野誠一氏)にすぎなかった。テレビ・メーカーはサービスを共通化することによって,テレビをインターネット利用の端末として定着させたいと考えた。
ただし,先行きがバラ色とはいえない。TVPSのacTVilaはあくまで国内のサービスである。世界中のパソコン関連メーカー,通信事業者,家庭用ゲーム機メーカーなどさまざまな企業が,「テレビをインターネット上のコンテンツやサービスの利用端末にする」ことを狙う競合相手として名乗りを上げている。「まずは日本でサービスを定着させ,その成果を世界に広げていく」(実証実験に参加したテレビ・メーカー)という進め方が,競合他社への遅れを取ることにつながる可能性も否定できない。国内の有力5社が仕様を共通化したことの強みを生かして,どれだけのコンテンツ提供者を集められるかが今後の焦点となりそうだ。
今回のVODサービスの実演で用いた映像は符号化データ速度が20Mビット/秒で1080iのMPEG-2 TSである。映像の符号化方式とストリーム形式は地上デジタル放送と同じであり,各社ともMPEG-2 TSを取り出した後の処理は,既存の地上デジタル放送向けの回路と共用していた。ただし,今回の実演でMPEG-2のHDTV映像をストリーミング再生できたのは,映像配信サーバーを閉じたネットワーク上に配置していたためである。家庭用ブロードバンド回線のデータ伝送速度を考えると,20Mビット/秒の映像をストリーミング再生することは難しい。VODサービス対応のために,テレビ・メーカーは既存のテレビのハードウエアを拡張することになりそうだ注3)。
インターネット上でコンテンツやサービスを提供する企業が,テレビからの利用を可能にする動きも出てきた。ヤフーは,ポータル・サイト「Yahoo! JAPAN」で提供するニュースや動画などのコンテンツをテレビで閲覧するための技術を開発し,CEATECに参考出展した。家庭内のネットワークで接続した機器間でデジタル・コンテンツを共有するための相互接続ガイドライン「DLNA」を応用した注4)。「パソコンからのアクセス数の伸び率が少しずつ減少する中,テレビからの利用を可能にすることで利用機会を増やしたい」(同社 事業推進本部 デジタルホーム事業室 室長の坂東浩之氏)と考えた。
同社が開発した「Yahoo! Digital Home Engine」と呼ぶソフトウエアを,DLNAの「Digital Media Server(DMS)」に対応する機器に搭載すると,DLNAのクライアントである「Digital Media Player(DMP)」に対応する機器からYahoo! JAPANのコンテンツを閲覧できる。Digital Home EngineがYahoo! JAPANから情報を取得し,それをDMP対応機器に伝送する(図7)注5)。
いずれは映像配信サービス「Yahoo! 動画」にも展開したい考え。CEATECの実演ではDMSに格納したMPEG-2の映像ファイルをストリーミング再生していた。ただし,Windows Mediaの符号化方式とDRM技術を使ってストリーミング再生するYahoo! 動画をDLNA経由で利用するためには,DMS対応機器が符号化方式やDRM技術をリアルタイムで変換する必要がある。このため,実現にはもう少し時間がかかりそうだ。
注2) TVPSは記者発表会で「Marlin DRMを採用する予定」と述べた。また米Marlin Developer Community(MDC)はCEATEC開催中の2006年10月4日に,Marlin DRMがデジタルホーム実証実験で採用され,acTVilaの標準DRMとして採用予定であると発表した。MDCは会員向けにMarlin DRMのリファレンス実装,およびソフトウエア開発キットの公開を始めたが,今回のデジタルホーム実証実験におけるVODサービスの実演ではMarlin DRMを実装していない。
注3) デジタルテレビ情報化研究会はストリーミングのコーデック仕様の骨子で,H.264/MPEG-4 AVCの利用については追って策定するとしている。TVPSは符号化方式を今後決めるが,HDTV映像の配信のためにH.264など圧縮率の高い符号化方式を採用する可能性が高いとみられる。
注4) 米Digital Living Network Alliance(DLNA)はCEATECで,機器間の伝送路でコンテンツを保護するための機器設計ガイドライン「Link Protection Guidelines」を2006年10月中に発行予定であることを明らかにした。「DTCP-IP」を必須とし,「Windows Media DRM for Network Devices」をオプションとする。DLNAは,DLNAの相互接続ガイドラインのロゴ認証を獲得した機器が110機種に達したことも併せて明らかにした。
注5) 例えばニュース提供サービスである「Yahoo! ニュース」では,ニュースの分野ごとに名前を付けたディレクトリに,ニュースの見出しをファイル名として付けた静止画データを格納する。