
携帯電話機をはじめとする携帯機器を差異化する一つの要素となるのが薄型化である。今回のCEATECでは,こうした薄型化の流れを強力に後押しする部品が登場した。厚みが1mmを切る,0.99mmと薄い液晶パネルである(図11)。
このパネルを開発したのは,東芝松下ディスプレイテクノロジー(TMD)。同社が現在,携帯機器に向けて実用化している最も薄い液晶パネルの厚みは1.7mm。この厚みでも,業界最高レベルの薄さだった。今回は,これに対してさらに約42%もの薄型化を図ったことになる。
これまで携帯電話機の設計者などからは,薄型化に対して有機ELパネルの登場に期待する声が数多く上がっていた。有機ELパネルはバックライトを用いないため,液晶パネルよりも薄型化しやすいと評価されていたからだ。しかし,今回の液晶パネルは,一般的な有機ELパネルよりも格段に薄い。例えば,TMDのブースに展示されていた携帯機器向けの小型有機ELパネルの厚みは1.7mmだった。携帯機器の設計者にとっては,有機ELパネルの実用化を待たずとも機器設計の幅が大きく広がることになる。
0.99mmの厚みを実現するため,ガラス基板とバックライト・ユニットの薄型化を図った。現行の1.7mm厚の液晶パネルでは,厚みが0.2mmのガラス基板を利用している。これに対し,今回の液晶パネルに採用したガラス基板の厚みは「0.2mmよりは薄い」(TMD)という。バックライトの光源は発光ダイオード(LED)である。このほか,具体的な薄型化の手法は明らかにしなかった。
前回に引き続き,今回も機器内光伝送に関する展示が相次いだ。光伝送は,高密度実装しても雑音の影響を受けにくいことから機器メーカーが注目している。今回ロームと松下電工は,携帯機器での利用を想定してそれぞれ従来品よりも実用に近づけた開発品を初めて披露した(図12)。
ロームは,前回出展した光空間伝送用の送受信モジュールをさらに小さくした。開発品の外形寸法は,送信モジュール,受信モジュール共に7.1mm×6.8mm×3.7mm。「前回の展示品は10mm×7mm×7mm程度と大きく,携帯機器には到底載せられなかった」(説明員)とする。今回の大きさにすることで,高電圧を扱う基板で絶縁耐圧を高めるフォトカプラとして使えるメドが立ってきたという。
従来品と同様に,光空間伝送は光軸を合わせられる許容範囲が1mmと広いことも特徴である。光ファイバや光導波路といった光伝搬路を使う場合は,発光素子からの光を±数μmの精度で光伝搬路や受光素子に入光する必要がある。
今回の開発品の伝送速度は100M〜2.5Gビット/秒だが,4Gビット/秒程度でも伝送できるという。通信可能な距離は20mm。会場では1.25Gビット/秒で映像信号を伝送するデモを行った。今後はデジタル・カメラや携帯電話機への搭載を目指し,5mm×5mm×2mm程度まで小型化する考えだ。
松下電工は携帯機器向けの光送受信モジュールを開発した。前回のCEATECで展示した,電気部品や光部品を実装でき,なおかつ光導波路を内蔵するフレキシブル基板を利用する。今回の出展品には,光電変換部とコネクタ部をかん合したものがフレキシブル基板の両端に付いている。携帯機器への実装を想定して,光電変換部のミラーや導波路をMEMS技術で作製して小型化を図る。光電変換部とコネクタ部をかん合した部分の外形寸法は3.6mm×6.5mm×1.9mm。会場ではこのモジュールに1.485Gビット/秒の映像信号を伝送し,表示する実演をしていた。
同社はこのほか,据置型のAV機器向けに光ファイバを光伝送路とする光送受信モジュールも新たに開発した。車内LAN規格「MOST」に対応した同社の光電変換コネクタで培った技術と,小型化のために「MIPTEC」と呼ぶ技術を応用する。据置型機器への搭載を考え,外形寸法を10.7mm×4.3mm×2.8mmとMOST向け光電変換コネクタよりも小型化した。さらに,実装時に光ファイバの着脱や光軸を合わせやすくするために,ファイバを被覆してあるフェルールを回転させて着脱できるようにしている。
伝送速度は,光ファイバのタイプが500M〜1.5Gビット/秒,導波路タイプが2.5Gビット/秒。曲げ損失は光ファイバのタイプが曲げ半径5mmで0.1dB,光導波路タイプが同1mmで1dBである。2008年度からの事業化を目指す。
携帯電話機本体としては,日本の地上デジタル音声放送(デジタル・ラジオ)を受信できる携帯電話機の出展に注目が集まった。出展したのはKDDIとNTTドコモである(図13)。いずれも,楽曲のプロモーション・ビデオなど簡易動画の再生と,5.1チャンネルのサラウンド音声データを受信してCD並みの高音質再生ができる。NTTドコモは発売時期を未定としたが,KDDIは2006年度末までに対応機種を発売する方針を表明した。
デジタル・ラジオの実用化試験放送が実施されているVHFの7チャンネルを使い,ISDB-Tの3セグメント放送と1セグメント放送を受信できる。簡易動画の符号化方式にはMPEG-4 AVC(H.264)などを使っており,動画像のフレーム速度は最大15フレーム/秒である。ただし,今回の試作機ではいずれも実際の放送波は受信していない。例えばKDDIは,内部に格納した簡易動画コンテンツ(エフエム東京が作成)を再生させた。
デジタル・ラジオはCEATEC開催の直前,2006年内に計画されていた本放送開始のスケジュールがいったん白紙に戻されるという番狂わせが起こった。もともとの計画では,2006年中に東京と大阪で本放送が開始され,VHF帯の新たな周波数も加えて2011年には全国展開される予定だった。デジタル・ラジオに積極的なエフエム東京とKDDIは何らかのサービスを想定しているようだが,エレクトロニクス・メーカーからはサービスの将来性に対して慎重な見方が多く聞かれる。
例えば,携帯機器向け3セグ・チューナーを開発する幾つかの部品メーカーは,本放送開始時期が不透明になってきたことで「モジュールの量産計画を考え直す」という。これまでは,「ワンセグ」サービスとデジタル・ラジオの両方を受信できる「1セグ/3セグ・チューナー」がいずれは標準になるという見方があり,部品メーカーの期待が大きかった。
ワンセグ受信専用のチューナーは現在,参入メーカーが増えたため価格下落が著しい。部品メーカーは3セグ受信機能を新たな付加価値として差異化する方針だったが,ここにきて戦略の練り直しを余儀なくされた。2006年度末までに3セグ対応機種を発売すると言明したKDDIの次の一手に,部品各社とも注目している。
携帯電話機のローカル通信機能を生かした,外部機器との連携例が増えている。携帯電話機メーカーなどは,家庭内利用だけでなくビジネス利用を想定したシステム提案力を競い合っている。
例えばシャープは,前回のCEATECで初披露した高速赤外線通信技術「IrSimple」を利用した外部機器連携のデモを見せた。同社はプリンターと携帯電話機にIrSimpleを実装済みで,会場では携帯電話機が内蔵するカメラで撮影した画像を印刷していたほか,IrSimpleを持たないテレビ向けにアダプタを試作し,テレビ画面に画像を表示してみせた(図14(a,b))。同社は今後,IrSimpleの搭載機種を増やしていくという。
三菱電機は,近距離無線通信技術を利用したコンテンツ転送技術を実演した。「反射型通信」と呼ぶこの技術は無線タグで使われる技術を応用したもので,携帯機器側には電源回路が不要となる。このため通信距離を制限するものの,Bluetoothや無線LANと同等以上の通信速度を持ちながら消費電力を小さくできる。
カーナビを想定したデモでは,カーナビに携帯電話機を近づけると携帯電話機に保存してある楽曲のメニューが一覧表示され,好みの楽曲を選択すれば再生できるようにした(図14(c))。対応機器が増えれば利便性が増すことから,今回のCEATECをきっかけに多くの企業に採用を働き掛けたいとする。
同社は技術の開発元については非公開としているが,会場で示していた技術仕様から,ソニーが「2006年電子情報通信学会ソサイエティ大会」で発表したものと同一のものとみられる1)。
さらに三菱電機は,大型画面を操作することにより,非接触ICカード機能を搭載した携帯電話機に電子クーポンを配信するシステムを出展した(図14(d))。大型のショッピング・モールなどに設置し,店舗に誘導するような用途を想定する。同じようなシステムは,富士通が「UBWALL」として出展していた。
このほかには,サミーネットワークスが携帯電話機を中継点として利用するデータ配信システム「muPass」を出展した。着信メロディーなどのデータを携帯電話機にいったんダウンロードし,赤外線通信経由で周辺機器に配信する。機器側に赤外線通信用インタフェースが必要になるが,携帯電話機能を載せるよりも割安にデータを最新のものに更新できる。メロディー音を変えられる機器としては,既に乳幼児向けの玩具,調理器具,固定電話機,目覚まし時計などに搭載実績がある。同社は,街頭の電子看板向けには表示データを,車載のレーダ探知機向けには位置情報も配信している。
携帯電話以外の通信分野では,超広帯域の伝送技術「UWB(ultra wideband)」を使った,HDTV映像の無線伝送に関する出展が相次いだ。UWBを使えば実効レートで100Mビット/秒を超える無線インタフェースを比較的容易に実現できる。2006年8月から日本での利用が解禁されたことも追い風となった。家庭のテレビとセットトップ・ボックス(STB)の間を無線で接続し,複数チャンネルのHDTV映像をストリーム伝送する用途を想定する。
例えば米Sigma Designs,Inc.は,10m程度離れていたり,伝送路に人や障害物が多く存在したりする環境でも,伝送誤りを少なくできるUWB無線システムを開発,CEATEC会場近くに設けた同社専用の会場に出展した。データ受信時に,3本のアンテナで受信した信号をデジタル信号処理によって合成することで,伝送路環境の変動が大きくとも安定して受信できるようにした(図15)。このため,受信に3本のアンテナを利用できる特殊な送受信ICを用いている。

Sigma社はHDTV映像の復号化LSIなどで注目されており,光ファイバ回線によるIP網経由でHDTVコンテンツをテレビ向けに配信する,いわゆるIPTVサービスのSTBの参照デザインに力を入れている。今回出展したUWB用送受信ICは,STBの家庭内通信向けに用意した。既に日本の家電メーカーへの採用が決まっているとしており,2007年3月末から量産出荷を開始する予定である。
同様のシステムでは,米Tzero Technologies,Inc.が,同社のUWBチップセットを使ったHDTV映像の無線伝送を各所で行っていた。Tzero社も複数のアンテナを使って送受信特性を高める同社独自の構成「UltraMIMO」を採用する。今回のCEATECでは,オムロンがUltraMIMOに対応した樹脂製アンテナを出展した。「樹脂製なので,形状の自由度が高い点がウリ」(オムロン)という。このほかTzero社は,米Analog Devices, Inc.のJPEG 2000処理用LSIを活用し,HDMI信号を高能率符号化してUWBで伝送するシステムを出展した。壁越しでも,5〜10mの距離を最大480Mビット/秒で伝送できるとしている。
通信関連の出展では,高速電力線通信に関する話題も多かった。松下電器産業や三菱電機,シャープなどが家庭内ネットワークに向けて,そしてNECなどが企業ネットワークに向けたシステムを出展した。CEATEC会期中に,高速電力線通信利用の規制緩和に関する官報告示が行われたこともあり,推進するメーカーや事業者は大きなアピールの場として利用した。
ただし,メーカーごとに利用する変調方式や伝送プロトコルなどが異なっているため,現状では相互接続性がなく,普及に向けては大きな足かせになる可能性がある。例えば松下電器産業や三菱電機が推進するWavelet OFDM利用の方式と,シャープやソニーが推進する「HomePlug AV」のほか,さらにNECなどはスペインDS2社が開発した伝送規格(DS2社はUPAと呼ぶ標準化組織を立ち上げている)を用いている。松下電器産業などメーカーの一部は,2006年内にも家庭用の伝送アダプタを発売する方針だが,今後家庭内でメーカーの異なるアダプタが併用された場合,相互接続性や電波干渉の問題などが発生しかねない状況でもある。
松下電器産業や三菱電機,ソニーらは,こうした弊害を少しでも軽減するために,複数の異なる伝送プロトコルの機器が家庭内に並存した場合にお互いに干渉を与え合わないための仕様作りを,業界団体「CEPCA(CE PLC Alliance)」の中で進めている。これまでにDS2社が主導するUPAとの間で,共存仕様の策定に合意した。今後はシャープなどが加盟するHomePlug Powerline Allianceといかに連携できるかに注目が集まりそうだ。
参考文献
1) 菊池,「置くだけでコンテンツ伝送,ソニーが省電力無線を開発」,『日経エレクトロニクス』,no.936,2006年10月9日号,pp.40―41.